新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

グローバル時代、民主主義の危機

 朝日新聞社は、毎秋「地球会議」という国際会議を開催して環境問題その他を議論している。2018年発表の本書は、2016・2017両年の会議に参加した世界の「知の巨人」4名の意見を編集したもの。テーマは「グローバル時代、民主主義の危機」である。4人の巨人とは、

 

エマニュエル・トッド 歴史人口学者、ユダヤ系フランス人

◇ピエール・ロザンヴァロン 近現代政治史が専門のフランス人

◆ヴォルフガング・シュトレーク 社会学者、ドイツ人

◆ジェームス・ホリフィールド 国際政治経済学者、アメリカ人

 

 である。ちょうどトランプ現象やBrexitが起きた時代で、4人は民主主義が危機にあるという点は一致している。新自由主義が行き詰まり、個人だけではなく企業や国家の格差が拡大し、ポピュリズムが各国に芽生えている。特に欧州では移民問題が顕在化していて、日本は少子化なのに公式には移民を受け入れないのはどうしてだろうと思われる。

 

 各国中央銀行はマネーサプライを増やし、政府は負債を増やしている。本来政府が財政を拡大しすぎないように制御するのが中央銀行の役目なのに、政府の一機関のように盲従している。その典型が「アベノミクス」である。

 

        f:id:nicky-akira:20220305134211j:plain

 

 これらの現象は、行政府(=権力者)が強くなりすぎ、議会すらもその顔色を窺うようになっていることが原因という。選挙とは主権者である国民が、自分たちの代表を選ぶこと。これが民主主義の基本なのに、「われらの代表」だったはずの権力者は翌日から国民の統治することしか考えなくなる。そこで代表されない「われら」は、いつも絶望することになる。

 

 かといってポピュリズムの人物を選んでも、事態が改善するわけではない。国民の多くはポピュリストに夢を持ち続けるか、絶望して選挙に行かなくなるかだ。そうして政治は一部のエリートたちに支配されることになる。

 

 その根底にはグローバリズムがあって、世界の一番安いところで買って、高く売れるところで売るビジネスが、エリートと(絶望した)大衆を分けることになる。トッド教授始め「グローバリズムはもっと緩やかに進むべきだ」の意見は、一致している。

 

 帯に「どこへ向かうのか?世界の知性の答え」とあったので買ってみたのですが、特に何か目新しいものは見つけられませんでした。「地球会議」ってこの程度のもの?