1999年発表の本書は、CNNのジャーナリストから謀略小説作家に転じたダニエル・シルヴァの第三作。デビュー作「マルベリー作戦」は第二次世界大戦中の謀略戦を描いたものだったが、第二作「暗殺者の烙印」では現代に舞台を移し、CIAのエージェントであるオズボーンと元KGBでフリーの暗殺者である「オクトーバー」ことジャン=ポール・ドラローシュのプロ同士の諜報戦だった。
昔恋人をオクトーバーに殺されたオズボーンは、今は上院議員の娘婿。しかしオクトーバー達がオズボーン夫妻を狙った時、オクトーバーの愛人はオズボーンの妻エリザベスが放った矢で死んでしまう。本書は「暗殺者の烙印」の続編にあたり、お互いに遺恨を持ったまま接点のなかった二人が、運命の徒で再会する。
きっかけはIRAのうちの過激派による、ダブリン・ロンドン・ベルファストの同時テロ。この過激派に武器援助をしているのが秘密組織<ソサイエティ>、その専属殺し屋がオクトーバーだった。組織は英国を政情不安に陥れ、世界秩序を壊そうとしている。オズボーンはCIAを退職していたが、義父の上院議員が大統領のたっての頼みで在英大使を引き受けてしまい、義父がIRA対策のミッションを負っているからには必ず狙われると考え、CIAに復帰する。
<ソサイエティ>は中東でも工作をしていて、言うことを聞かなくなったイスラム原理主義組織のボスをオクトーバーに暗殺させた。偶然その犯行映像を手に入れたオズボーンは、身のこなしからオクトーバーが生きていたことを知る。
IRAの過激派リーダー、IRAを見限った男、死んだIRAのテロリストの妻、新任の女性CIA長官、官僚的な英国CIAの長など、多彩な人物がオズボーン夫妻の周りを跳梁する。前回の事件で妊娠中だったエリザベスは双子を出産していて、初孫をかわいがる義父もエリザベスも、オクトーバー達の銃口にさらされることに。
秘密結社<ソサイエティ>の存在が不気味、理事長と言うイギリス人のほかに多くはアングロサクソン系の幹部が暗号名で集まって会合を持つ。英米政府の高官も混じっているらしい。
オズボーンの活躍は見事なのですが、暗殺者ドラローシュも格好いい男。むしろ彼の方が主人公かと思える展開。結局2人とも死ななかったので、続々編があるかもしれませんね。