本書が笹沢左保の「木枯し紋次郎シリーズ」の最終中編集、さらに「帰ってきた紋次郎シリーズ」もあるというが、とりあえずはこれで打ち止め。全15巻のうち、13冊は読んだように思う。どうしてもTVドラマの印象が強いので、紋次郎といえば中村敦夫の顔が浮かぶ。長身でやせぎす、破れ三度笠に雑巾のような手甲・脚絆といういで立ち。
貧しい身なりだが草鞋はおおむね新しく、長脇差は錆朱色の鞘を鉄輪と鉄鐺で固めた重厚なもの。中身は、志津三郎兼氏が鍛えた業物だ。
志津三郎兼氏の長脇差 - 新城彰の本棚 (hateblo.jp)
紋次郎は喧嘩の達人で、大勢の渡世人相手でも、駆け回り道中合羽を巧みに使い、頑丈な鞘も武器にして一人一人倒していく。逆手にもった長脇差を背後の敵に突き立てる得意技は、TVでもよく見られた。時には、咥えた長楊枝を吹き針のように使うこともある。
それでも本当に剣の修業を積んだ武士や侍崩れが相手では、渡世人あいてのような我流の喧嘩剣法は通用しない。本書では、紋次郎は2人の剣客崩れと対峙することになる。「死神に勝つは女か雷か」に登場する正木進之丞は、下総佐倉藩十万石の剣術師範で、小野派一刀流の使い手。六十余州に敵なしと伝えられる剣豪である。叔父のしくじりで佐倉藩を追われ、今はヤクザの用心棒。少しでも気に入らないことがあると人を斬るので「死神」とあだ名されている。
命の恩人を進之丞に斬られてしまった紋次郎は、全く敵わないと知りつつも、ただ一つ見つけた進之丞の弱点を頼りに決闘を挑む。もう一人は、峠花の小文太という渡世人。信州上田の松平家の家中で、直新陰流(作中は直心影流とある)の使い手だった山中小文太である。彼も兄のしくじりで主家を追われ、妹の奈緒も木枯し紋次郎(の偽物)にたぶらかされて女郎屋で死ぬ悲劇に見舞われる。
小文太は「自ら紋次郎を八つ裂きにする」決意で、渡世を渡っているのだ。小文太は作者が紋次郎に与えたライバルで、何度も登場し「遺恨の糸引く奴凧」では、2人共同で渡世人50人を相手取ることになる。
「あっしには関わり合いのないことで、ごめんなすって」というセリフや虚無の表情、堅気には死んでも迷惑を掛けない姿勢、どんな悪女でも女は斬らないポリシー・・・うーん、これぞ日本のハードボイルドですね。