本書は、松村劭元陸将補の「戦争学シリーズ」の第四作。軍事行動には「決戦」と「持久戦」があるが、そのいずれもが採れないほど劣勢であるなら、本書にあるような「ゲリラ戦」が大きな選択肢になる。筆者によると、ゲリラ戦成功の要因は9つあって、
1)カリスマ指導者と秘密結社
2)出入りが自由で安全な「聖域」
3)「聖域」から安定的に指揮できる司令部
4)原則として「決戦」をしないこと
5)襲撃目標は敵軍のみ、非戦闘員を巻き込まない
6)戦場となる地域の住民の支援を得られる
7)地域の住民支援計画と整合性を持つ
8)軍事物資を提供ひそかに支援してくれる国がいる
9)敵国の戦争目的と地域を制限する
という。最後の項目について補足すると、優勢な敵軍に政治的な縛りをかけて行動を制限しようというもの。例えばヴェトナム戦争で最強米軍がカンボジアに逃げ込む共産ゲリラを追跡できず、原爆の使用もソ連との核戦争を恐れて出来なかったことを指す。
戦史の例として、二度にわたるアフガン戦争(最初は英軍、次にソ連軍)や、ナポレオンの足を引っ張ったスペイン戦役、そしてヴェトナム戦争などが挙げられている。いずれも優勢な正規軍に、寄せ集めで装備も訓練も不十分なゲリラがいかに戦って勝利を得たかが描かれている。
ではゲリラを討伐するにはどうしたらいいかと言うと、
1)何よりまずゲリラの機動力を奪う
2)ゲリラと同等の戦闘単位の部隊を編成・投入する
3)潜伏地を遠巻き包囲して補給を断ち、徐々に包囲を絞る
4)地域住民をゲリラ思想から解放し、安全を保障し経済的にも保護する
5)ゲリラの武器・弾薬庫を捜索し、この摘発を徹底する
という。これも戦史例が付いていて、アレキサンダー大王・織田信長・蒋介石らの例が挙げられていた。本書の発表は2002年だが、前年に3・11テロが起きている。この事件は、イスラムゲリラがゲリラ戦・テロリズムの枠を超えた戦闘を仕掛けた結果、米国のアフガン侵攻を呼んだことで、ゲリラ戦としては失敗(上記9番目の項目に反した)だという。
その遠因は、使えない核兵器の登場で、戦争をしても国が滅びるわけではないことが分かり、ゲリラもテロリストも「法」を越えてしまう傾向が強くなったからだとある。これは昨今の「インフラ狙いのサイバー攻撃」などにも通じる話、人類滅亡が見えていれば「悪さ」も出来なかったのですがね。