新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

大日本帝国のぜいたく品

 中国・韓国ほどではないが、日本の大学受験もなかなかの過当競争。昨年の共通テストでは、スマホ経由のカンニング事件も摘発(罪名:偽計業務妨害)されている。いい学校に入りたいという欲求は、どの時代にも存在する。明治中期から昭和初期にいたる日本(大日本帝国)では、旧制高校の入試がそれにあたるかもしれない。旧制高校は、

 

ナンバースクール(一高~八高) 8校

・地名スクール(新潟、山口など) 18校

帝国大学予科(北海道、ソウル、台北) 3校

・7年生高等学校(府立、成蹊など) 9校

 

 で、合計38校あったという。

 

 明治中期、小国ながら列強に追いつくべく殖産興業、軍備増強を図っていた日本は、その礎たる人材育成にも本気で取り組んでいた。その大きな要件がエリート養成。そのために全額官費、全寮制の選抜教育機関を設置しようとして、これらを置いたものだ。定員は対象世代の1%ほど(*)で、卒業生の合計は21万人を少し超えるほど。当時の文部省の予算の2割が充てられたというから、その本気度が分かる。旧制高知高校OBの三浦朱門氏は旧制高校を「大日本帝国のぜいたく品」と評した。

 

*)1%というのは、英国のパブリックスクールと同程度の比率

 

        f:id:nicky-akira:20220212133718j:plain

 

 地図上の分布を見ると、決して首都圏集中ではなく、全国(の面積)に均等に配置されているように見える。ソウルや台北はもちろん、昭和になってからは旅順にまで旧制高校が開校している。これらの外地(?)校は、現地の人も現地に駐在している日本人の子弟も、あるいは内地からも人材が集まり、交流を深めたとある。

 

 自動的に大学に進学できることから、他のルートより早い段階で受験競争をすることで、入学してからは比較的自由な人間形成ができたと言われる。旧制高校は科学技術だけでなく、文化やスポーツ(例えば野球)の発展にも寄与した。現に政治家や軍人だけではなく、多くの知識人・文化人も巣立っていった。

 

 太平洋戦争後、GHQ旧制高校を「学閥の原因」として廃止するように動く。エリート教育を誤って日本を破滅に導いたとの説もあるが、それには反論もあり一概に「旧制高校の弊害」とは言えないように思う。

 

 僕の地元の八高は愛知県出身者が5割を超える「マルドメ高」だったが、意外にも進学先は東大が4,000人以上で最も多く、名古屋帝大に進学したのは300人もいない。ちょっと僕らの世代とは感覚が違いますね。