新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

交戦規則下での尖閣防衛戦

 2020年発表の本書は、尖閣諸島を巡る日中両軍の海戦をハイライトにした架空戦記。作者の喜安幸夫は「台湾週報」編集長を経て、作家に転じ「台湾の歴史」で日本文芸家クラブでノンフクション賞を受賞している。李登輝友の会、日本ウイグル協会会員でもある。

 

 共産党中枢の中南海は、尖閣諸島の実効支配を狙って海警局の公船と漁船団を送り出した。無人島である釣魚島にまず漁民を上陸させ、救難信号を送らせて海警局の船を送り込んで支配を固めようという計画。しかし日本漁船を中国軍の潜水艦が誤って撃沈してしまったことから、計画は失敗する。

 

 中南海尖閣諸島の防衛戦に米軍は出てこないと考え、それを確かめようとしていた。今回の軍事行動で米軍の反応を見切った中南海は、今度は本格的な侵攻の準備を始める。

 

        

 

 準備を始めたのは日本政府も同じ、首相官邸に関係閣僚が集まり尖閣防衛の策を練り始める。いきなり日本を核攻撃するような非常手段で無ければ、少なくとも緒戦に米軍は参戦しない。最初の1発を中国軍に撃たせ、第一次侵攻は自衛隊のみで撃退しなくてはならない。また、戦闘開始以前から手の内を見せるリスクを負いながら、状況を内外に公表するべきだ。そして、緒戦に勝った段階で中南海の弱点である、ウイグルチベット・モンゴルなどの周辺で<反漢民族>勢力を蜂起させるのだ。

 

 海上保安庁自衛隊施設部隊は「墨俣一夜城作戦」を決行、釣魚島に即席要塞を築城する。迫る「鄭和」「大連」の2空母機動部隊は、4発のミサイルを発射し、巡視船や釣魚島施設で犠牲者が出た。交戦規則をクリアした自衛隊は、下地島からF35A、空母「いずも」からF35Bを発信させ、迎撃戦闘を開始する。

 

 潜水艦、イージス艦、戦闘機などの戦闘シーンはあっさりしたもの。ウイグルその他での蜂起工作も詳しくは書かれず、日本政府首脳の凛々しい決断が目立つフィクションでした。本当にこうなればいいのですが・・・。