新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ライン河の対岸の城

 1931年発表の本書は、怪奇&密室ミステリーの大家ジョン・ディクスン・カーの初期の作品。以前紹介した「夜歩く」「絞首台の謎」に次ぐ第三作で、前2作同様パリの予審判事アンリ・バンコランが探偵役を務める。ただ彼は、それほど売れた探偵ではない。

 

 中世趣味のあるカーは、新興国アメリカではなく旧大陸に舞台を求め、フランス人を主役にした。ワトソン役に米国青年ジェフ・マールを置いたものの、米国読者からは実感の湧かない作品になっていたかもしれない。

 

 バンコランは、本書に登場する公爵夫人と異名をとるアガサから「悪魔面」と呼ばれるように、メフィストフェレス様の外観。捜査方法も悪魔的で、可愛げはない。おどろおどろしい雰囲気の事件ゆえ、似合いではあるのだが。

 

        

 

 コブレンツに近いライン河のほとりにたたずむ古城「髑髏城」、中央塔が髑髏の形状をしている。元々は稀代の奇術師マリーガーの所有物だったが、17年前(第一次世界大戦前)に彼が亡くなり、俳優アリソンと大富豪ドネイが相続していた。その城でアリソンが全身を炎に包まれて死んだ。対岸の別荘でその様子を見たアリソンの妹アガサは使用人たちを差し向けたが、拳銃で撃たれた後火を付けられた遺体が見つかっただけ。

 

 事件はドイツ警察の担当で、高名な探偵アルンハイム男爵が派遣されようとしている。しかしドネイは、なぜか休暇中のバンコランに声をかけ、現地に同行してくれるように依頼する。興味から引き受けたバンコランだったが、途中自動車事故に巻き込まれる。

 

 城内の隠し階段、隠し部屋、城の外に伸びる地下通路など、カー好みの仕掛けが満載である。一方アリソンの服装や靴などの状態から、仏独の探偵は複数の仮説を立て、推理を展開する。2人の天才的探偵の対決は面白く、解決の方法もしゃれたものでした。中学生の時に読んで分かりにくかったことが、ちょっとは理解できましたよ。