新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

コラージュを作る警視正

 1979年発表の本書は、以前「緑は危険」や短篇集を紹介したクリスチアナ・ブランド後期の作品。英国女流作家の中でも、アガサ・クリスティの後継者と目された一人で「謎解き」についての評価が高い。本書の解説では「謎解き5人衆」は、ポー・チェスタトン・クイーン・カーとこのブランドだという。クロフツやクリスティも入っていないのに・・・。

 

 確かに「緑は危険」は立派なパズラーだし、子供の頃に読んで再び手に入っていない「はなれわざ」など面白い作品だと思う。しかしこのところ、中古書店で作者の作品を見かけることはほとんどない。

 

 レギュラー探偵としては「ケントの恐怖」とあだ名されるコックリル警部が有名だが、本書の探偵役チャールズワース警視正もデビュー作「ハイヒールの死」以来の登場だ。彼は冒頭「犯罪捜査は、バラバラに四方八方に散ったコラージュを復元するようなもの」と語り、本件でもジンジャー巡査部長などを捉まえて「コラージュ談義」をする。

 

        

 

 ある嵐の夜、引退した女優のサリーは、映画館から自宅に急いでいた。映画館では自分が現役時代に主演した映画が上映されていたのだが、どうも身辺に尾行が付いているように感じたからだ。彼女は地中海の小国サン・ホアン公国の王子を駆け落ちしたことがあり、公国の諜報員がつけ狙っているかもしれない。

 

 現役時代の知り合いでもある窓口係ヴァイと話していて尾行に気付き、急遽帰ることにしたのだ。しかし自宅への一本道が、目の前で巨木が倒れてふさがってしまった。偶然木の反対側にいた見知らぬ男も急いでいて、お互い車を交換して目的地へ向かおうということになった。なんと2台の車は発売されたばかりの同型車。

 

 サリーが翌朝遅くに目覚めると、車の後部座席の下にヴァイの絞殺死体があった。あの男は殺人者だったのか?しかし駆け付けたチャールズワース警視正のチームは、車はサリーが登録したものと確認した。巨木のこちら側には来られなかったはずのサリーの車がどうして・・・。死体ではなく死体を詰めた「樽」とか「トランク」の役割を、ここではキャドマス・ハルシオン3000という高級車が演じている。

 

 謎は面白いのだが、中盤のサスペンスは平板。サリーたちがローマに旅する話が(旅行記として)興味を惹いた程度。結末も、盛り上がりに欠けました。うーん、初期の頃の切れ味ではないということですかね。