新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

放送法行政文書事件の背景(後編)

 日本で独立機関がテレビ局を監視できる体制にないのは、多くのテレビ局が新聞社の系列である(クロスオーナーシップ)ためだ。独立機関による監視は、政治だけではなく他のメディアからの独立もテレビ局に要求する。これは今の日本では難しい。

 

 昨日はテレビ局に対する政治(安倍官邸)の圧力を示す本を紹介したが、この圧力は他のメディア、特にテレビ局と関係深い新聞社にも及んでいるとある。そういう主張の本書は、新聞労連中央執行委員長の南彰氏が2020年に発表したもの。

 

 小泉内閣では2回/日行われていた総理への「ぶら下がり取材」は、安倍内閣で低調になった。安倍総理は、小泉総理のように当意即妙の受け答えが苦手だったらしい。第二次安倍内閣では、記者クラブの機能を制限し、予め通告された1件/社の質問に限定するようになった。

 

        

 

 総理の重要な記者会見は、NHKがテレビ中継するのだが、台本棒読みゆえ「台本営発表」と揶揄された。フリーランス記者の入場も制限され、更問は禁じられた。「COVID-19」対策として学校の一律休校を発表した時も、糾弾する質問や異論は封殺されていた。これには新聞社の内部からも反発があり、政治部記者クラブへの不信感が巻き起こった。

 

 しかし政治部としては、TOPが安倍総理との懇談会に出て懐柔されていたり、独占インタビューなどをさせてもらうには関係を保ちたい意識があって、公然と官邸批判できる新聞は限られていた。総理以外では官房長官の会見が定例で行われるが、菅長官も(特定のメディア相手かもしれないが)「お答えする必要はありません」と回答を拒否することも多かった。

 

 本書にも、2016年の高市総務大臣の「停波」発言の波紋が述べられている。これに対して、気骨ある言論人が「表現の自由」を主張して反論したが、相対的にテレビや他のメディアも委縮していった。

 

 安倍総理暗殺事件は、このような「委縮」を解消するきっかけになるかもしれませんが・・・さて。