新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

本能寺で死ななかった信長

 今日は「本能寺の変」があった日。本書の作者井沢元彦は、織田信長を主人公にした歴史ミステリーをいくつも書いた。以前「謀略の首」という長編と、「修道士の首」という短篇集を紹介している。これらはIFの要素はあると言っても、あり得たかもしれない歴史小説だった。しかし、本書は1991年から1年余り雑誌に連載されたもので、信長が本能寺で死ななかったもう一つの歴史を描いている。

 

 信長を守り日本統一はもちろんのこと、東南アジアも制圧させて「大東亜共栄圏」を作らせるというテーマだ。さすがにここまでするには歴史小説の枠を超え、SFの手法を使わざるを得ない。

 

 時間査察員2039号は、天正10年に起きた時間の歪みを調査するため、2095年の地球政府時間査察局から時空転移装置で派遣された。しかし、時間をゆがめていた犯人(紊乱者)が仕掛けた防御スクリーンに跳ね飛ばされ、2年後の大阪に飛ばされてしまう。そこは天正12年ではなく、新しい年号「霊鳳」で大阪ではなく洛陽と呼ばれる街だった。巨大な城が石山本願寺跡に建てられ、その主は「太閤信長」だった。

 

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 2039号は転送のショックで記憶を無くしていたが、応援に駆け付けた4062号エミリーの助けで事態を認識し始める。しかし本能寺の変を未然に防いで信長を救った紊乱者は、2人の査察官を捕え信長の天下取りを続行させる。

 

 紊乱者が未来の技術を伝えたため、信長軍の戦力は向上する。羽柴・明智の両軍は毛利を降伏させ長曾我部を滅ぼし、今は九州制圧を目前に島津を攻めている。残る敵は北条と伊達くらいのもの、天下統一の暁には・・・と信長は琉球からルソンへの侵攻を考えている。

 

 紊乱者の罠から逃れた2人の査察官は天正10年に戻り、紊乱者の妨害を排除して「本能寺の変」を起こさせようとする。しかし時間査察局に連絡も出来ず、未来の兵器も失った彼らにチャンスはあるのか?

 

 SF的手法を用い、ルソン沖のエスパーニャ艦隊と九鬼艦隊の決戦や、時空の歪みで2095年の地球に危機が迫るシーンなどはある意味定番。それに「本能寺の変の黒幕はだれなのか」という歴史ミステリーの味付けもある。

 

 SFとかミステリーとかいう枠を離れた、作者の独壇場「信長秘録」でした。改行が多く、350ページながら実質200ページほど。すぐに読めてしまいました。