新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ゾルゲらを捕まえた特務機関

 プーチン大統領が子供の頃からKGB入りを希望したのは、第二次世界大戦におけるゾルゲらの活躍を知ったからだという。「1人のスパイが数個師団に値する」これが少年プーチンの心に火をつけた言葉だった。

 

 2003年発表の本書は、日本には幻の特務機関があって、ゾルゲ逮捕などに貢献したとの内容。著者の斎藤充功氏はノンフィクション作家で「謀略戦陸軍登戸研究所」などの著書があり、その調査をしていて幻の特務機関「ヤマ」の存在を掴んだ。中野学校登戸研究所などと違い、陸軍でもごくわずかの人しか知らなかったという機関の、オーラルヒストリーを遺した士官がいたことが分かった。それによると、

 

・機関長(部長)三国少将

・防諜部長 植田大佐

・甲班 内外要人の監視、外国公館・ホテル等の監視

・乙班 内外電信・電話の盗聴、通信傍受

・丙班 内外郵便物の開緘、税関荷物の検査

・丁班 要監視者の荷物奪取、窃取

・戊班 スパイの謀殺、偵諜

 

        

 

 の体制とミッションを持っていた。他に2つの班があったとする資料もあるが、詳細は不明。本部スタッフだけで250名ほどがいて、何ヵ所かの支部も持っていた。ヒストリーを遺した士官は、長崎支部勤務が長かったらしい。

 

 エピソードとして前駐英大使の吉田茂を監視していて逮捕に手を貸した(甲班)とか、敵性国外交官から財布をすり取ってマイクロフィルムを窃取した(丁班)の事例が紹介されている。ゾルゲは配下にクラウゼンという電気技師を連れていて、ウラジオストックと内密の交信をさせていたが、これを乙班が傍受して組織のアジトを突き止めたとある。さすがに戊班(暗殺)の事例はない。

 

陸軍主計大佐新庄健吉 - 新城彰の本棚 (hateblo.jp)

 

 冒頭、著者の上記の書「開戦通告はなぜ遅れたか」にも登場する新庄大佐のことが出てくるのですが、彼とこの特務機関の関係もわからないまま。本書も上記の書同様に消化不良の感じがします。そもそも合言葉が「ヤマ」に対して「カワ」なんて、真っ当な諜報機関がすることでもないと思います。リアリティが感じられません。