1956年発表の本書は、女王アガサ・クリスティの「ポワロもの」。学生時代に多くの本格ミステリーを読んだ僕だが、ヴアン・ダイン、クイーンはもちろんカー、クロフツなどの著作は手に入るものはみんな読んだものの、クリスティの特にポワロものには未読が多い。理由は不明だが、ベルギー人の変な探偵の所作が好きではなかったからではないかと思う。
逆説的だが、そのおかげで女王の脂の乗り切った時期(クイーンらと違ってその時期が長い)の作品が、今初めて読めるわけだ。本書はロンドンのポワロのオフィスで幕が開く。最後の章にしかポワロが現れない作品もあるので、これは嬉しい。ポワロを急に呼び出したのは「ひらいたトランプ」以降、時々顔を見せる女流作家のアリアドニ・オリヴァ夫人。
高名なミステリー作家なのだが、ポワロに言わせると「支離滅裂な頭で、よくミステリーが書ける?」という人物。やや戯画化した作者自身の分身のような気もする。そんな彼女は、ダートムアに近い広大なスタッブス卿の邸宅ナス屋敷に滞在している。
ナス屋敷では数百人の入場者を見込んだ「お祭り」を企画していて、その目玉企画が「犯人当て競技」。擬似の殺人事件を起こして見せ、あらかじめ用意された手掛かりから、犯人・凶器などを推理し、正解者にはご褒美が出るというもの。オリヴァ夫人はその企画責任者なのだ。
企画の準備は順調なのだが、オリヴァ夫人はどこかひっかかるものを感じていた。そこで表向き正解者に商品を渡す係としてポワロを指名、その陰で自分の不安を払しょくしてもらえないかという。引き受けて列車に乗ったポワロだが、
・スタッブス卿はお金持ちだが、素性も知れぬ老人
・卿の妻ハティは外国人で、若く美しいが精神年齢は15歳
・落ちぶれた貴族で元のナス屋敷の所有者フォリアット夫人も邸内の小屋に住んでいる
スタッブス卿については付近の住民もいい印象を持っておらず、かつての所有者だったフォリアット家を今でも懐かしんでいる。そんな環境でお祭りが始まったが、ゲームとして殺される役だった少女が本当に殺され、ハティが行方不明になってしまう。1ヵ月たっても事件解決のめどは立たず、ポワロは自信を無くしかけるのだが。
女王のストーリー展開はさすがでした。それにしても自信なさげなポワロというのも珍しかったですね。