新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

大戦間の黄金時代を舞台に

 1992年発表の本書は、13人の作家が2つの条件を提示されて「アガサ・クリスティに捧げる短編」を書き下ろしたアンソロジー。その条件とは、

 

・黄金期たるWWⅠ~WWⅡの時期を舞台

・少なくとも一つの死体を登場させる殺人物語

 

 であるが、何人かの作家は尻込みし、書いたものの条件を守らなかった作家もいたと編者(ティム・ヒールド)の前書きにある。クリスティをストレートに意識しなかった作品もあるし、あえてパロディっぽく仕上げた作品もある。例えば、

 

◇メイヘル・パーバの災厄(ジュリアン・シモンズ)

 ミス・マープルを思わせる探偵役が登場、6つの毒殺事件を解決して見せる。クリスティは毒殺が得意で「5匹の子豚」など6作で異なる毒薬を使った。この短編にはその毒薬が全部登場する。

 

        

 

◆恋のためなら(スーザン・ムーディ)

 エルキュール・ポアロがそのままの姿で登場、サラというナレータ役の女性が知り合いに遭遇した事件の経緯を手紙で書き送る形で物語が進む。サラは最初ポアロを「ピエロ」と表記して笑わせてくれる。

 

 また呼びかけ人ティム・ヒールドは「検察側の達人」という題名で、名前こそ出てこないがマープル&ポワロと思しき探偵を登場させ、2人をまんまと欺くトリックストーリーを書いた。サイモン・ブレットなどは、死体はおろかミステリーでも小説でもないクリスティの文学論を展開した「文学史のお時間」を寄稿している。

 

 大戦間は英国本格ミステリーの黄金期、クリスティだけでなくクロフツやアリンガムらも活躍していた。その時代の雰囲気をアンソロジー化するのが本書の目的だった。すべての作品は1990年に書かれていて、知っている作家は3人(*1)だけ。改めて、日本に紹介されていない作家が多いと感じました。今後紹介されるのでしょうかね?

 

*1:HRF・キーティング、ポーラ・ゴズリング、ピーター・ラヴゼイ