新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

雪の中の降霊術の会

 1930年前後の女王クリスティは、意外な犯人というテーマを追い求めていたように思う。「アクロイド殺害事件」や「オリエント急行の殺人」など古典的な名作も、その意識から生まれたと思う。この2作には探偵役としてエルキュール・ポアロが登場するが、レギュラー探偵を使いにくいシチュエーションで「意外な犯人」をやってみようとした作品もいくつかある。

 

 デビュー作からのレギュラーであるポアロ、本書(1931年発表)の直前に「牧師館の殺人」でデビューしたミス・マープル、官憲であるバトル警視、明るいスパイもののトミー&タペンスが出てくる作品ではないのが、本書「シタフォードの秘密」である。

 

 ダートムーアの産地、エクセターに近い寒村が舞台。富豪でもあるトリヴィリアン大佐はそこに豪華な邸宅シタフォード荘を建て、周辺に複数のコテージも配した。冬は雪に降りこめられるこの山荘を、冬の間だけ借りたいという不思議な借主ウィリット夫人が現れ、大佐は麓の街に降りて山荘を貸すことにした。夫人は娘と2人で南アフリカからやってきて、コテージに住んでいる人たちを呼んでひんぱんにパーティを開いていた。

 

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 この日も厳しい寒さの中、コテージの人達がやってきてテーブル・ターニングという降霊のゲームを始めた。テーブルの音で文字を決めていき、幽霊からのメッセージをあぶりだすもの。その言葉は「トリヴィリアン大佐が殺された」だった。コテージの住人で大佐の友人でもあるバーナビ少佐は、降り始めた雪の中を6マイルもの道を下って大佐を訪問するのだが、果たして大佐は殴り殺されていた。検視医の見立てでは、死亡推定時刻は降霊術のまさにその時。

 

 現地警察のナラコット警部は、大佐の妹や甥・姪4人に莫大な遺産が贈られることから、4人のアリバイを調べる。すると甥のひとりジムが、死亡時刻ころに伯父を訪ねていたことが分かる。重要容疑者となったジムの婚約者エミリーは、新聞記者チャールズの助けを借りて真相を掴もうとする。エミリーたち2人の素人探偵振りは、どこかトミー&タペンスを思わせるもの。そして彼女は真犯人を見つけるのだが・・・。

 

 意外な犯人ながら「犯人当て」なら僕も出来ました。ストーリー上この人物しかありえないからです。しかし犯行手段は分からないまま。今回も女王にしてやられましたね。