新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ハリッジ(英)~フーク(蘭)往来航路

 1985年発表の本書は、デビュー作「死人はスキーをしない」などを紹介してきたパトリシア・モイーズの<ヘンリ&エミーもの>。子供のいないティベット主任警視夫妻は、仲睦まじくあまり豪華ではない休暇旅行にたびたび出かけ、食事やワインを楽しんでいるうちに事件に巻き込まれることが多い。

 

 今回の舞台は、英国ハリッジとオランダのフークを結ぶ夜行フェリーである。「死とやさしい伯父」の事件で知り合ったドゥ・ヨング夫妻と、すっかり大人びた娘のイケーネのところで短い休暇を過ごした夫妻は、いつもは個室がとれるフェリーで混雑に巻き込まれ、簡易寝台が並ぶ寝台部屋で帰る羽目になった。多くの客がうんざりしている中で、パーサーに激しく個室を要求する男スミスがいた。まるで個室じゃないと、命が危ないかのように。

 

        

 

 寝台部屋に仕切はないが、チケットをチェックするパーサーが寝ずの番をしていて、実質上密室。朝になると、スミスは刺殺されていた。どうもオランダの宝石店から盗まれたダイヤの運び屋をしていた男らしいが、盗難ダイヤはどこからも見つからない。

 

 オランダ警察からの強い働き掛けもあり、現地警察の捜査が行き詰まる中、ヘンリの上司は彼を応援に派遣することにした。ところがヘンリの留守宅、エミー一人でいるところに再三賊が侵入する。実はエミーの化粧ポーチにダイヤが隠されていたのだ。ヘンリはダイヤを石にすり替えて、盗ませることに成功するのだが、手先を捕まえただけ。黒幕の正体が分からない。

 

 殺害現場には、普段そんなところに乗らないオランダ貴族や豊かなジャーナリスト一家も乗っていた。一体宝石泥棒の黒幕は誰か?ティベット夫妻は三度オランダ行きのフェリーに乗り込み、最後に関係者を集めて真相を暴く。

 

 本格ミステリーとして、謎・ユーモア・旅情などを詰め込んだ高いレベルの作品が多い作者ですが、本書は間違いなく傑作です。このシリーズ、もう本棚に残っていません。もちろん、しつこく探しますよ。