新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

スペンサー、ハリウッドに立つ

 先日爛熟期にあるハリウッドでプリンス・マルコが活躍(例によって女性相手が主体だが)する、ジェラール・ド・ヴィリエの「インディアン狩り」を紹介した。それから12年、今度はロバート・B・パーカーのレギュラー探偵スペンサーがやってきた。ほとんどホームグラウンドのボストン周辺で活動しているスペンサーが西海岸に来ることになったきっかけは、かつて護衛を務めた相手レイチェル・ウォレスからの電話だった。

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 レイチェルは知りあいのTVレポーターであるキャンディが、事件に巻き込まれて何者かにつけ狙われているという。例によって「$200/日+経費」で護衛の仕事を引き受けたスペンサーは、アメリカ大陸を横断する。
 
 スペンサーが到着したその日にキャンディが襲われる事件があり、レイチェルの警告は本当だったことが分かる。背景となっているのは映画製作に関する不正なカネの流れで、その一部を偶然キャンディがつかんでしまったことで狙われるようになったと思われる。
 
 12年前のマルコの頃は、映画界はまだ大金を稼げるところだった。それゆえ一般人が驚くような乱れ方をしていたのだが、スペンサーがやってきた1981年には映画界そのものが衰退期に入っている。人々の娯楽が多様化しTV局もそれなりの番組を作るので、映画の在り方が変わり始めていたのだ。それでも製作側は「大作の大ヒット」を目指してカネを集め、興行が失敗して投資が回収できないことも増えてきた。マフィアなどの怪しげなカネが流れ込んでくることもあり、もう少しするとジャパンマネーがハリウッドを買うという事態も招くことになる。
 
 本書では、映画製作会社社長やプロデューサーが怪しい動きをする。大きなカネ、表ざたにできないカネが流れていて、マフィアも絡んでいるようだ。ウーマンリブの闘士であるレイチェルと違って「女の武器」を最大限に使ってメディア界でのし上がろうとするキャンディは、スペンサーがとめるのも聞かず危険な賭けに出る。
 
 「ロスに似た街はこれまでどこでも見たことがない」ととまどうスペンサーだが、キャンディを精一杯守ろうとする。スペンサーはカリフォルニア州での私立探偵免許を持っているはずもなく、知り合いの警官もいない。相棒のホークも呼べない。そんな悪条件もあって、苦戦を強いられる。
 
 爛熟から衰退に向かうハリウッドで、最後にスペンサーの怒りが爆発する。救いの少ないストーリーでスペンサーの活躍も目立たないが、その分リアリティのある物語です。