アクション・バイオレンス小説でシリーズ化を図ろうとすると、無敵の主人公は設定できても敵役に苦しむことになる。次々に「より強い相手」が必要になるからだ。トム・クランシーの主人公ジャック・ライアンのように大統領にまでなってしまうと、「米中開戦」「米露開戦」というふうに国家レベルの大きな敵を作り出していかねばならない。
そのグリーニー、自身の主人公コート・ジェントリーは「目立たない男」だが、凄まじい戦闘力を持っている。本書はジェントリーの3作目にあたる。前作でナイジェリア内戦に巻き込まれた彼は、「第三次世界大戦にようこそ」というド派手な戦闘シーンを演じて生き残る。
たったひとりで1国の内戦を戦い抜く以上のことが次の作品では求められるので、期待して第三作を読んでみた。今回ジェントリーの敵は、麻薬カルテル。命の恩人の死を知ってメキシコで足を止めたジェントリーは、10名以上の恩人遺族をカルテルの攻撃から守りながらアメリカに逃れようとする。
メキシコという国の腐敗ぶりがヴィヴィッドに描かれていて、正直信じられない思いだ。アメリカには麻薬を密輸するのが、国家を支える産業にすら見える。カルテルのボスは堂々とTVに出るし、スター扱いされている。なるほど、これなら十分強大な敵役である。これが誇張でなく本当なら、国境にカベを作るという政策もあながち否定できない。
恩人の妹を人質にとられたジェントリーは、600ページ中最後の100ページでカルテルへの反撃に出る。単なる人質奪還やボスの暗殺ではなく、カルテルに経済的なダメージを与えるテロを展開するのだ。ルールを無視した戦いを仕掛けるというジェントリーに、死んだ恩人の仲間だった警官は、メキシコにはもともとルールはないという。これにジェントリーは、こう応える。
「俺がいうルールとは、人の道のことだ。その全てにそむく覚悟がある」