新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

白人支配は悪だったのか?

 コンゴの南でアンゴラという国が独立しようとしていたころ、作者ジェラール・ド・ヴィリエの関心はこの国にあったようだ。アフリカだけではなく、欧州(白人)諸国の支配が世界中で終わろうとしていた時代である。柘植久慶の作品にも再三出てくるが、このような植民地の独立が正しかったのかという疑問である。


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 北米大陸が典型的かもしれないが、先住民を侵略者たる白人が追い払い広大な土地を手に入れて国を新しく打ち立てた。中南米でもインカ帝国などを滅ぼした欧州の各人種が支配層になった。これらの所業の後、植民地としてではあるが産業が振興し広く通用する言語も普及した。もちろん大半の収益は本国に持ち帰られてしまったのだが。
 
 マルコ殿下は、CIAがアンゴラ全面独立民族同盟(UNITA)と交わした極秘文書を奪われた件で、これを奪還するために現地に降り立つ。ここでは、共産系のアンゴラ解放民族運動(MPLA)、反共のアンゴラ民族解放戦線(FNLA)と中間派のUNITAが乱立して、独立後の主導権を狙っていた。MPLAにはソ連が大規模な軍事供与をしていて、優勢である。CIAはアンゴラに共産政権ができることを防ごうとしていたわけだ。
 
 例によって複数の勢力が暴力をふるい、マルコに関わりあった登場人物が片端から死んでゆく。その残酷な殺され方もヴィリエ作品の特徴であり、本書では特に顕著である。そんな救いのない話の中で異彩を放つのが独立で築き上げた資産の全てを失おうとしているポルトガル人の大農園主の娘と、3,000名の傭兵部隊を率いるポーランド貴族の男。農園の者たちも傭兵たちも全て現地人(黒人)なのだが、リーダーは白人でないと務まらないという。
 
 一方黒人のUNITA幹部は「白人に親はいない。カネが白人の親だ」と言って、マルコの提案に耳を貸さない。例えMPLAに敗れるとも、白人の手は借りないということだ。史実でもMPLA中心の政権ができたが、ソ連崩壊とともに混乱が始まり映画「ホテル・ルワンダ」に見られるように、ツチ族フツ族の民族紛争/大虐殺へとつながってゆく。
 
 植民地支配というのは、確かに搾取の仕掛けだ。しかし一方で秩序を維持し、産業振興をする道でもあった。同じ民族であっても、ガバナンス能力の有無は組織の大きなテーマです。本書の本筋ではないですが、そんなことを考えてしまいました。