新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

朝鮮半島、2003(後編)

 生き残った北の特殊部隊員チョン・ヒチョル上尉は、南に潜入したかつての恋人リ・ガウンの案内でソウルにたどり着く。この過程で「南の先輩」であるガウンが教え諭すことが面白い。

 
 ・北で一般に言われていること違い、社会主義と資本主義のどちらがいいかは不明。
 ・何かひとつの取柄があれば、資本主義社会で生きていくのは楽しい。
 ・中国がGDPで猛追し米国は焦っている。2030年代には逆転するかもしれない。
 ・今が、米国が朝鮮半島に影響力を残せる最後の機会かもしれない。
 ・そこで米国は日本を巻き込み、朝鮮半島での紛争を望んでいる。

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 2003年に書かれたものとは思えない、的確な分析である。また、サイバー戦争についても興味深い記述がある。米国国防総省のシステムに侵入するた経験のあるジョンヒョン青年は、北韓の拉致目標である。
 
 彼は正体不明の組織に追われながら、PC房(韓国のインターネットカフェ)でリ・ガウンに「ハッカーは核爆弾以上の戦力だ」といくつもの例を話して聞かせる。僕の感覚ではこの話の半分は真実、半分は誇張だ。
 
 実際に国家レベルのサイバー攻撃が行われたのは、この後2~3年経って、ロシアがエストニアに対してのものが最初と言われている。それを予見したような課題設定である。一方、ちょっとうなずけない記述もある。
 
 ・北韓核武装すれば、日本が直ちに核武装する。
 ・その後台湾などにも核兵器が拡散する。
 ・日本はF4の長距離型を使い北韓爆撃を計画中。
 ・NHKとCNNがテロ現場の映像をスローで放映。
 
 北韓武装スパイの仕業に見せかけたテロが頻発するのだが、コンビニで焼酎(ソジュ)を飲んでいた浮浪者や買い物に来た子連れの主婦が何発もの銃弾を受けて倒れるシーンなど、上記メディアが細かく伝えることなど考えられない。このあたりに、日米への理解が不足していると思うのは偏見だろうか。
 
 プロットは比較的浅くヒネた読者には読みやすいし、戦闘シーンは平板だ。それでも、韓国国民の意識を知る意味で面白い作品である。一昨年4月にソウルへ行った時、世界は北朝鮮情勢でピリピリしていたのにソウルは全くの平常。その意味が分かったように思いました。