新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

朝鮮半島、2003(前編)

 本書の作者ファン・セヨンは、韓国気鋭のミステリー作家と解説にある。いわゆる386世代(30代で、80年代に大学に入学、60年代生まれ)である。最近は聞かれないが、本書発表当時2003年には、韓国の「新人類」的な扱われ方をしている。ちなみに386の意味はもうひとつあって、Intelのプロセッサ「80386」にちなんでいる。

 

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 15年経つのだが半島情勢は基本的なことは何も変わらず、核やミサイルの脅威だけは確実に増していることが本書を読むとよくわかる。金正日がノドンミサイルを衛星実験と称して打ち上げ、ハワイ南へ着弾させる。怒った米国のブッシュ大統領は3個空母艦隊を日本海(本書では東海)に派遣する。名前の出てこない韓国大統領は、もっぱら北韓に対して包容政策をとろうとしている。
 
 韓国国民の意識が、韓国作家だけにリアルに描かれていて、
 
 ・北韓は、韓国には核兵器を使わない。
 ・統一の折には韓国も核保有国になれる。
 ・米国に軍事面で牛耳られている不満がある。
 ・米国より北韓が好きという人はずっと多い。
 ・北韓と米国のサッカーの試合では北韓を応援。
 
 との主張には説得力がある。
 
 半島の緊張感が高まる中、北の潜水艦が3名の特殊部隊員を積んで韓国沿岸に接近する。3名は首尾よく上陸を果たすのだが、潜水艦は米軍に探知されて撃沈させられてしまう。その模様をスキューバダイビングをしようとして目撃した人たちの中に、若手のハッカーであるイ・ジョンヒョン青年と恋人のチョ・ヨンヒがいた。
 
 ジョンヒョンとヨンヒの周辺にはその後謎の武装集団が出没、一緒に目撃したコンピューターウィルスの専門家とその恋人は無残な死体となって発見される。事件を追う国家情報院のチェ・スンソク捜査官らに先回りするように、ジョンヒョンとヨンヒにも魔手が迫る。一方上陸した北韓の特殊部隊員も韓国軍との交戦で2名が死亡、唯一生き残ったチョン・ヒチョル上尉はなんとか現地工作員と合流を果たし、ソウルへ向かう。
 
<続く>