何冊かIntelligenceに関する書を紹介している佐藤優氏(元外務省主任分析官)と、よくTVでお見掛けする宮家邦彦氏(外交政策研究所代表)は、外務省での現役時代、接点がなかったと冒頭にある。二人の専門が、
佐藤氏:欧州、ロシア、神学、哲学
宮家氏:米国、中東、中国
と離れていたからだという。しかし今では、時折二人きりでディナーを摂りながら国際情勢論議をする仲。そのディナー対談の様子をうかがわせるのが本書(2019年発表)である。話題は朝鮮半島情勢・トランプの米国・米中対立・プーチンの手腕から、核兵器拡散・エネルギー安全保障・AI軍事力を経て民主主義のあり方にまで及ぶ。他の新書などで勉強させてもらったこととの重複を省くと、中東情勢から始まり日本のエネルギー政策を考え直すヒントがある章が一番面白かった。
ポイントは、
・腐敗したエリート層が構造改革を阻むサウジアラビア(王族だけで1万人いる)
・サウジ改革の旗手ムハンマド皇太子の失敗を、イランはじっと待っている
・欧州が「脱石油」を急ぐのは、米国(石油メジャー?)離れをしたいから
・自動車のEV化は進むが、自動車産業を抱えるドイツは悩んでいる
・欧州全体も電力確保に苦心、太陽光発電もカドミウム等の環境汚染を呼ぶ
・中東紛争などで石油が入らなくなった場合の日本のエネルギー安全保障は?
というもの。特に日本のエネルギー自給率は8%しかなく、国際情勢の変化で存立の危機に立たされることは明らかだ。なし崩しの原発再稼働は良くないとしながらも、やはりエネルギーミックスの中で20%ほどは原子力に頼らざるを得ないとある。安全保障の見地からの提言として、
・政治学者や軍事専門家は、市場原理や技術に昏い
・両者が一緒になって日本のエネルギー安全保障をゼロから見直すべき
・同時に日本に独自の「エネルギーメジャー」を創設すること
が挙げられていた。このほかAIによって世界の軍事情勢が変わるとの議論があった。AIは戦術兵器としてではなく国家戦略を(核兵器に代わって)変えるともある。これには全く同感。
僕の知っている財界の重鎮も、日本の経済界の課題として、デジタルによる構造改革とエネルギーのベストミックスを挙げていました。後者は僕の専門外ですが、勉強はしておきたいと思います。