新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

民主党政権、2020の悲劇

 本書はいわゆる「架空戦記」とは一線を画した、ヴィヴィッドな政治ドラマである。著者の中村秀樹は、潜水艦「あらしお」艦長など主に潜水艦畑を歩んだ海上自衛官(最終階級は二佐)、「本当の潜水艦の戦い方」などの著書がある。これは入門編の軍事的な解説書だが、本書は小説仕立てになっている。想定される時代は2020年ころ、日本では民主党政権が続いていて、鳩派の烏山総理以下の内閣、国会、それにおもねるメディアまでが「憲法9条墨守、一国平和主義」を掲げている。

 
 国民も戦争などあり得ないという認識でいるし、防衛費は年々削減され自衛隊の士気はおちている。RoE(Rules of Engagement:交戦規則)は厳密に運用されていて、目の前で民間船が中国軍艦から略奪されていても、海上自衛隊は手出しできない。まずは海上保安庁の仕事というわけだ。外交的には中国に対しては平身低頭、中国は覇権意識を丸出しにしてくる。
 
 中国がついにキバを剥き尖閣諸島ばかりか先島諸島宮古・石垣・与那国等)を占領するというのが、本書の第一章。中国は漁民を装った特殊部隊を尖閣に上陸させ海上保安庁がそちらに気をとられているスキに宮古島のレーダー基地を破壊、那覇航空自衛隊基地でも作戦機を破壊しつくす。

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 中国軍は自前の空母「関羽」を中心とする機動部隊や大規模な空挺部隊を投入して、先島諸島を無血占領する。対抗するのが警官の拳銃だけでは、いかんともしがたい。また日本国内への宣撫工作も十分で、中国の傀儡となった自称ハト派政治家、人権派弁護士、左派メディアは「中国の先島諸島解放」を容認しようとする。
 
 市民の白い目を背中に受けながら、奪還に向かったイージス艦「こんごう」以下の艦隊は接触してくる中国の民間船(スパイ船である)を振り切れず、位置を特定されてミサイルの波状攻撃で壊滅する。ここまでが著者の危機感を表した部分で、さすがに後半、目覚めた国民の声に後押しされ政治のクビキを離れた自衛隊の活躍が描かれるのだが、熟読すべきは前半である。
 
 2020年まで民主党政権が続いていたら、という悪夢のシナリオを具体的に体験できました。いろいろ追及される安倍政権ですが、本書の烏山政権よりはよほどまともだと思います。