新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

死刑制度を考えるきっかけ

 大杉漣さんの遺作となった、「教誨師」という映画が昨年公開された。僕はまだ見ていない。法治国家である日本において、国家の名のもとに殺人を行うのは、死刑制度以外にはない。昨年は「オウム事件」の死刑囚13人全員の刑が執行された。多くの先進国で死刑が廃止される中、日本にはこの制度が残っていることを非難する声は国内外に少なくない。

 
 あらためて言うまでもないが、僕は法学者でも宗教家でもない。しかし中学・高校のころからミステリーを読んでいるので、刑罰としての死刑やそれに至るプロセスなどは他の人よりは詳しい。例えばエラリー・クイーン「Zの悲劇」には、一章を割いて死刑執行のシーンが描かれている。人によってはこの部分を「100の死刑廃止論にも勝る効果がある」と言う。

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 本書の作者青木理はジャーナリスト、日曜朝の報道番組「サンデーモーニング」にレギュラー出演している。TVでの主張は(この番組の傾向同様)反体制色の強いもので僕とは相容れないが、ブレない姿勢には好感を持っている。筆者は1994年秋に発生した「木曽川長良川連続リンチ殺人事件」を中心に、何人もの死刑囚、刑務官、教誨師、被害者家族と会って、事件や背景、死刑の実態、死刑囚の心情などを調べて本書にまとめている。
 
 「リンチ殺人事件」は複数の未成年のドラッグや酒、集団心理に任せた無軌道な事件で、4人もの犠牲者を出した。主犯とされた3人の未成年は死刑が確定したが、未成年3人同時に死刑判決というのは未曾有のことである。筆者の目は、やはり法執行機関側に厳しい。
 
 ・死刑確定者が100名を越えることを恐れ、執行を急ぐ姿勢。
 ・年間最低1名は執行しようとし、押し詰まったクリスマスにキリスト教徒を執行したこともある。
 ・とにかく死刑囚への接見が難しい。仮に許可が出ても15分だけ。
 ・国会議員経由で依頼してはじめて、死刑囚からアンケートがとれた。  等々
 
 特に福岡・飯塚女児殺害事件については、昔のDNA鑑定にあいまいさが残り被告は無罪を訴えているのに死刑が執行されている。こういうことを世間に伝えていくのがジャーナリストの勤めとはいえ、本書にあるような努力には敬意を表したい。先入観なく死刑制度を考えるきっかけになる一冊でした。