新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

会社は株主のもの・・・

 本書は、以前「憲法おもしろ事典」「民法おもしろ事典」を紹介した、弁護士ミステリー作家和久峻三の「おもしろ法律シリーズ」の一冊。のちの生活の安定を思って工学部に進学し、法学者になることをあきらめた僕にとって、大学生以降「法律は趣味」になっていた。・・・本当は、ただ法学部入学が難しかっただけである。地元の大学の法学部の定員は50人しかなかったので。

 

 ミステリー好きの僕としては、刑法・刑事訴訟法が最初の趣味の対象になるのだが、高木彬光「白昼の死角」などを読んでいると、法律を盾に取った犯罪も多いことがわかってきた。例えば「手形パクリ詐欺」のようなもの。法律にうとい素人にハンコをつかせるなどして「完全犯罪」をたくらむわけだ。「完全犯罪となる殺人」などよりはこちらの方が簡単に思えたので「商法」というのも勉強してみようと手に取ったのが本書である。

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 かつて米国からモノ言う株主がやってきて、日本の善良な企業を乗っ取ろうとする騒ぎがあったし、株式ってなんなんだっけと思った。日本の大きな企業に入ると、当時は企業一家のような雰囲気があり、「会社は従業員のもの」という意識があった。取締役は従業員の「あがりポスト」だし、従業員持ち株制度などがあって従業員みんなで会社を盛り立てよう・・・と総務部が宣伝していた。

 

 しかし「会社は株主のもの」で資本主義ってそうだよねと思っていた僕は、入ったこの会社&従業員の行動様式には疑問を持った。持ち株制度をかたくなに拒否して総務部長ににらまれてから、僕の「企業内ハグレ鳥人生」が始まる。本書は入社後10年余経って読み、あらためて本書で自分の考えが間違っていなかったことを確認した。

 

 面白いのはこの時点(1992年発表)ですでに、電子計算機利用詐欺が取り上げられていること。銀行オンラインシステムのオペレータのお姉さんが、入れあげた男のために電子的な金銭横領をする話だ。それから30年近くたっているのに、デジタル系の法体系整備は十分ではない。無体財物たるデータを盗んでも窃盗にならないのだから。一昨年亡くなった和久先生に申し上げるわけにはいかないから、立法府の皆さん宜しくお願いしますよ。