新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

すかんぴんだが口八丁

 以前「コルト拳銃の謎」を紹介した、フランク・グルーバーのジョニー&サムが登場するシリーズの第一作が本書。ボディビルの書籍を売るテキ屋の二人、ジョニー・フレッチャーは口八丁のセールスマン、サム・クラッグはボディビルの生きた見本である。

 
 本書の発表は1940年、グルーバーは映画の脚本やウェスタン小説を書いていたのだが、E・S・ガードナーのペリー・メイスンものを読んでミステリーを書こうと思い立ち、2週間ほどで書き上げたのが本書である。主人公の設定を、宿無しのテキ屋にして軽いノリで事件に関わっていく男2人にしている。
 
 事件の舞台となるところが、映画や興行、ショービジネスに置かれることが多く、本書でも新人女優のミュージカル劇や、ラスベガスの裏面が描かれていて作品に厚みを持たせている。安ホテルに居続けて宿代を溜めてしまい、とうとうロックアウトされてしまった2人だが、隣の部屋から窓づたいに部屋に入る方法を思いつき戻ってみるとのどを斬られた死体が転がっている。

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 死体の身元は不明だが、掌に1822年ものの5ドル金貨が握られていた。2人は金貨を持って逃げだすのだが、当然殺人の疑いがかけられてしまい、事件を解決せざるをえなくなる。疑いをかけられた宿無し2人組なんていうのはよくある設定だが、この2人特にジョニーには悲壮感はカケラもない。富豪のようなふりをして豪華ホテルに移り、立派な服も詐欺同然に手に入れる。捜査陣は安ホテルや高跳びを警戒しているから、豪華ホテルは死角になっている。
 
 金貨の価値を探るうち、コイン収集家や鉱山などを運営する実業家、2人が逃げるところを目撃した新人女優などがからんで、ドタバタ劇が繰り広げられる。2人は金貨の出た場所をラスベガス近くと読んで、その鉱山跡に向かう。
 
 ラストシーンは新人女優が大役を射止めたミュージカルの舞台裏、関係者をミュージカルに呼び出したジョニーが警官や検事の前で真犯人の名指しする。体裁は立派な本格ミステリーなのだが、口八丁のジョニーのせりふ回しをはじめお笑いが8割を占めている。ジョニー&サムものは14作発表されているのだが、日本には4作ほどしか紹介(翻訳)されなかった。ちょっとふざけすぎ、と日本の読者に思われたのかもしれません。