新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

イタリア重罪院の裁判

 「ペリー・メイスンもの」などを読み始めて、改めて法廷ものの面白さを思い出した。他の米国のものや日本の法廷ものの読んだが、本書(2002年発表)のようなイタリアの法廷ものは初めてだ。1月にサルディニア島の弁護士を主人公にした「弁護士はぶらりと推理する」を紹介しているが、この物語には法廷シーンはなかった。

 

 作者のジャンリーコ・カロフィーオは、本書の舞台でもある南イタリアのプーリア州バーリの検察官。本書がデビュー作品である。興味深かったのは、イタリアの刑事裁判のやり方。まず予審があって、そこで被告人には2つの選択肢が与えられる。

 

・略式裁判

 陪審員なしで司法の専門家だけで判決を下す。早く結審するので被告人が負担する分を含め費用も抑えられるが、検察側しか証拠を提示しないので無罪になる可能性はほぼゼロ。量刑は少なめになるので、有罪であればこの方が被告人にも有利。

 

・重罪院裁判

 裁判官2人、陪審員6人が判決を下す。弁護測も証拠提出が可能で、無罪を勝ち取る可能性が(少しは)出てくる。ただし時間とお金がかかり、有罪となればより重い判決を覚悟しなくてはならない。

 

 事件は、バーリから30kmほど海岸を南東に行ったカピトーリの街で起きた。9歳の少年が行方不明になり、のちに死体で発見される。逮捕されたのは少年と親しかったセネガル人の行商人アブドゥ。アフリカ人仲間が助けようと弁護士費用を集めたものの、悪徳弁護士に持ち逃げされてしまう。困った彼らは少壮弁護士グイードに弁護を依頼する。

 

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 グイードは妻に逃げられ自信を無くしているのだが、この難事件を前に徐々に生気を取り戻す。捜査や裁判と並行してグイード自身の過去もフラッシュバックされ、彼の挫折から復活の物語でもある。アブドゥは重罪院での裁判を望み、グイードは切り札を手に入れられないまま裁判に臨むことになる。

 

 挿入される複数の事件は、麻薬常習者をどうやって釈放させるかで日銭を稼ぐ弁護士など、イタリア法曹界の恥部を示している。弁護士という職業が、ひどく蔑視されている社会環境もある。また正規の移民であるアフリカ人への差別意識も、生々しく描かれている。ジェフリー・ディーヴァーが「最良の法廷スリラー」と評したのが本書、グイード弁護士の華麗な反対尋問もあって、立派な「法廷もの」でした。不慣れなイタリアの地名・人名には閉口しましたがね。