新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

リーダーズ・ダイジェストの思い出

 中・高校生のころ、「リーダーズ・ダイジェスト」という雑誌をとっていたことがある。もうほとんど中味は覚えていないが、いろいろな書籍のエッセンスだけを集めたもので、全部を読む暇のない忙しい人が愛用していたらしい。高度成長期の、ワーカホリックをターゲットにしたものだったろう。接待ゴルフやつきあいカラオケで忙しいが、お客様の話題についていくために往復の列車の中などで読んで話題の中心だけは掴んでおこうと言うニーズである。

 

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 なんでそんなものを学生がというと、定期購読のおまけのシャープペンシルに惹かれたから。それで1~2年、雑学に触れることになる。普通に記事や論説がダイジェストになっているだけではなく、中には小説のダイジェストもあった。
 
 歴史ものやSF、純文学に近いものまで、これも雑多なメニューだったが、その中で覚えていたのが軽ハードボイルドともいえるフランク・グルーバーの本書。発表は1941年、日本人がくず鉄を買いあさって困るなどとの記述があることから、太平洋戦争はまだ始まっていない。その直前、極寒のシカゴで物語は始まる。
 
 口八丁のセールスマン、ジョニーとボディビルダーで力業のサムの2人組は金欠でホテルを追い出されてしまう。そこにいわくありげな女が寄って来て、ある男を殴ってネクタイをはがしてきてくれたら10ドル払うと言われてその気になる。しかし指定の場所で男を殴ったまではいいのだが、あとでその男が射殺体で見つかり2人は殺人犯として追われる羽目に。
 
 やたらと細かいカネの話がでてきて、それはそれで面白い。例えば当時ビフテキ定食は40セント(ドルではない!)とか、長距離バスの運賃が7ドルだとか当時の相場が見えてくる。事件解決のカギは、西部の凶盗ジェシー・ジェームズの愛銃ネービーコルト36口径。銃に隠されていた1,000ドル札の片割れを巡って、警官・探偵社・実業家・弁護士・前科者・謎の女が入り乱れてのドタバタ劇が300ページ続く。
 
 解説によると、この本は四半世紀近く絶版になっていたものの復刻なのだそうです。リーダースダイジェストで読んでから、40年以上経ちます。もう少し「名作」だったら、懐かしさもひとしおだったのかもしれませんが・・・。