新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

いかに尊厳を持って死ぬか

 光人社NF文庫の兵器入門シリーズ、今月は「ドイツ海軍」である。本来大陸国家であるドイツにとって、海洋国家英国と海で張り合うのは難しい。それでも第一次世界大戦では英国の半分ほどの大艦隊を配備し、史上最大の艦隊戦といわれる「ユトランド沖海戦」を戦った。その結果は、

 

◇英国海軍

 ・総保有トン数 125万トン

 ・喪失トン数 15.5万トン

 ・戦死者 約6,100名

◆ドイツ海軍

 ・総保有トン数 66万トン

 ・喪失トン数 6.1万トン

 ・戦死者 約2,600名

 

 となり、実質的には引き分けに終わった。しかし戦争には敗れたことで海軍は解体、厳しい制約の中で再建に励んでは見たものの、全く戦力が整わないうちに第二次世界大戦を迎える。総司令官レーダー元帥は「我々は戦闘において、いかにして尊厳を持って死ぬかを世界に見せなくてはならない」と嘆いた。

 

        f:id:nicky-akira:20210916174602j:plain

 

 英国のアキレス腱は、世界に広がった通商航路だ。今の日本も同じだが、これを寸断されれば英国本土は干上がってしまう。そこで小型の潜水艦(Uボート)が主力となった通商破壊戦が、ドイツ海軍の戦略になる。主力艦である「ビスマルク」や「ティルピッツ」も(「大和」以前の世界最大艦でありながら)通商破壊に出撃する。

 

 横山信義が「一番美しい主力艦」と讃えた巡洋戦艦シャルンホルスト」「グナウゼナウ」も、戦績の大半は輸送船狩りだった。他に「ポケット戦艦」3隻、重巡洋艦3隻、軽巡洋艦6隻が大型艦として参戦できた全てだった。緒戦に近いノルウェー攻略戦で優秀駆逐艦を多く失い、その後は艦隊戦は全くできなくなった。レーダー元帥の予言は的中したことになる。

 

 ただ単艦か小規模な艦隊で通商破壊に出撃する、もしくは出撃するかもしれないドイツの水上艦隊は英国海軍の目の上の瘤だったことも確かだ。「ビスマルク」1隻を相手取るのに英国海軍は、戦艦・巡洋戦艦6隻、航空母艦2隻、巡洋艦12隻、駆逐艦21隻と陸上航空機50機を投入している。

 

 面白かったのはドイツの魚雷艇が、地中海や黒海に進出していること。100トンほどの小型船なので、ライン=ローヌ運河を経由して河川で地中海に抜けたり、陸路ドナウ川まで運んだ。欧州のリバークルーズ番組で見たが、アムステルダムから黒海に抜けるルートを観光船が行きかっていた。

 

 ドイツ魚雷艇の旅路、追体験してみたいですね。いつか。