新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

米国vs.全世界の大海戦

 本書は「海の架空戦記作家」横山信義が、本当に書きたいものを書いたシリーズの1作。第二次世界大戦はどう転んでも日本に勝ち目がなかったことは、何度も紹介している。それでも架空戦記作家たちは、工夫をを凝らして、

 

・なんとか善戦できるように

・あわよくば講和に

 

 というシチュエーションを作ろうとする。SF的な手法を用いない限りは、本書の国際情勢は一番理想的なものと言えよう。何しろ米国が覇権意識をむき出しにして、欧州に侵略戦争を仕掛けるというものだから。英・独・仏・伊に日本からなる連合軍には、のちにソ連も加わることになる。

 

 米軍は北アフリカジブラルタルアイスランドを占領、西地中海や北海に制海・制空圏を確保している。一方太平洋ではトラックやサイパンは落としたもののパラオ日本海軍に侵攻を阻まれ、フィリピンが危機に陥っている。

 

 開戦は1942年だったので、各国海軍には計画のみで終わった艦種も就役している。作者が本書で書きたかったのは、以前「最も美しい戦艦」と紹介したドイツの「シャルンホルスト級」の活躍。主砲は28センチとやや小口径ながら、3連装3基で副砲・対空砲も充実していて快速(31ノット)である。

 

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 史実では2隻しか完成しなかったが4隻の計画があり、本書の情勢では完成した4隻が日本海軍に売却されて太平洋戦線に登場する。日本海軍はこの4隻の巡洋戦艦を「浅間」「阿蘇」「天城」「吾妻」と名付けて、機動部隊の護衛用に配備する。

 

 砲撃力はまずまずで速力に優れる巡洋戦艦という艦種は、第一次世界大戦のシェットランド沖海戦で垂直方向の防御に問題ありとされた。日本海軍も「金剛」級の4隻を高速戦艦に改装して、実質この4隻しか日本の戦艦は活躍しなかった。

 

 本書では巡洋戦艦4隻はパラオ沖の大海戦に参戦、米国の新鋭戦艦や巡洋艦と砲火を交える。「ブルックリン」級などは軽巡洋艦ではあるが1万トンの排水量があり、6インチ砲を15門も積んでいる。冒頭の海戦では、英国の新鋭戦艦「プリンスオブウェールズ」が、2隻の軽巡洋艦に撃ち負けて戦闘不能となり魚雷で沈められている。史実通り空母機動部隊の激突の後でしか水上艦の出番は無いのだが、それでも思い切り砲撃戦を楽しめるのが作者の真骨頂。

 

 20年以上前に読んで面白かったのが本書、一番好きな架空戦記かもしれません。