新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

三度目のハリウッド

 本書は、巨匠エラリー・クイーンの1951年の作品。以前「ハートの4」(1938年)を紹介しているが、その後少し間を措いての三度目のハリウッドものである。この間、歴史的には第二次世界大戦があり、作者クイーンとしては架空の田舎町ライツヴィルものを数編発表して、単なるパズラーではない境地を拓いている。

 

 本書のストーリーには第二次世界大戦後の、戦争は終わったはずなのに不安が広がる米国人の気持ちが色濃く反映されている。クイーンはハリウッドは奇人の集まりとして描くが、本書のマクガワン青年はターザンのような姿で現れる。世界が核戦争で破滅した時のために、原始的な生活をするのだと木の上で全裸で暮らしているのだ。

 

 その不安が爆発しそうになったのは、夏に北朝鮮軍が韓国に侵攻した時。朝鮮戦争の始まりである。世界の危機が迫ったわけだが、マクガワン青年は突如軍隊に志願する。虚飾と歓楽と腐敗の町ハリウッドで、そんな米国人の不安を背景にエラリーは不思議な事件に巻き込まれる。

 

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 「父が犬に殺された」と訴える若い娘ローレルは、官憲にも弁護士にも相手にされず「有名な探偵」エラリー・クイーンを頼ってくる。小さな猟犬の死骸とそれに付いていた文書をみて彼女の父である宝石商ヒル氏は心臓発作を起こし、その後亡くなったのだ。死因に不信な点はないのだが、エラリーはその文書の写しを見つけ何らかの邪悪な意思が働いていると考える。

 

 その後ヒル氏の共同経営者ロジャーが毒殺されかかり、寝室にカエルの死骸が大量に放り込まれるなど奇怪な事件が連続して起こる。ただハリウッドの陽光の下では、エラリーの慧眼も冴えない。350ページ中2/3までは、探偵役がフィリップ・マーロウでもかくありなんの展開が続く。

 

 残り100ページとなって、ようやくエラリーが長い推理を話し出すのだが・・・。上記「文書」が原書の英文まで掲載されていることで何かの罠であることは分かるのだが、方々にちりばめられる米国人の「常識」も合わせて、日本の読者には難しいストーリーである。二転三転の結末を解説はほめているのだが、登場人物の少なさもあって意外な展開と感じられるかどうかは人によるだろう。

 

 もうこのころエラリー・クイーンは、編集者としての比重が増えていました。ライツヴィルものに拍手した読者たちも、これ以降の作品にはやや不満を持つでしょうね。