本書は「地球幼年期の終わり」などで知られるSF作家、アーサー・C・クラークのジュブナイルものである。舞台はちょうどいまごろのグレート・バリア・リーフ。作中に年度は書いてないのだが唯一、
「1881年のことだから、1世紀半も経っていない」
との記述があるので、2020年ごろではないかと推測した。本書の発表は1963年で、
「1960年代にイルカとコミュニケーションを図り、協力してできそうなことを・・・」
との記述もあるので、実際にイルカと会話しようとした科学者も、当時いたのかもしれない。オーストラリアのクイーンズランドに暮らす16歳のジョニーは、両親を亡くし伯父の家にいるが居づらくなっていた。彼はどこへ行く当てもなく船に密航して港を離れたものの、その船が難破してひとり取り残される。そんな彼を救ってくれたのはイルカたち、彼の急造イカダを交代で押して島まで運んでくれたのだ。
その島はグレートバリアリーフの一角にあり、ロシア人カザン教授がイルカ研究のために建てた施設があった。カザン教授は長年イルカと会話する研究をしていて、その言葉の解析もかなり進んでいた。SFなので、60年後の技術についていろいろ記述があって、現実にどうなったか評価してみた。
・衛星写真による、イルカの群れの探知 ⇒ ◎
・コンピュータによる、イルカの会話の分析 ⇒ 〇
・海棲哺乳類の脳に電極を入れて行動を制御 ⇒ ?
・コンピュータが学習の進捗度を判断して教材を作り教育 ⇒ △
作者の思ったことの大半はできているようだ。最後の項目は、技術的には可能だが政策的に(教員の身分を守るため)封じられている。
ジョニーは「電子教育」には閉口するのだが、自然の中でイルカたちとも交わりたくましく育っていく。カザン教授はイルカたちから「天敵シャチ対策」を依頼されて、シャチの行動変容の実験を始める。ところが島を巨大ハリケーンが襲い、連絡船も通信設備も壊れてしまった。けが人も何人か出たし、教授が重度の肺炎にかかってしまう。誰かがクイーンズランドまで行って助けを求めなくてはいけない。ジョニーは友人となったイルカたちの引っ張るサーフボードで本土を目指すのだが・・・。
SFというのは古さを感じさせないものだと、改めて思いました。本書はそのまま子供向け雑誌に連載しても、十分受けると思います。時には血なまぐさくないSFもいいものですね。