新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

スペースオペラVer.2.0

 以前E・R・バローズの「火星のプリンセス」を、スペースオペラの始まりと紹介した。南軍の兵士カーターが火星に降り立ち、知恵と勇気で火星人と戦い、美女と結ばれ大元帥になるという物語だった。その後SF界では、ヒューマノイド型ではない宇宙人が登場する「ハードSF」というジャンルが隆盛になった。たとえば、A・E・ヴァン・ヴォークトのネコ族の宇宙人などである。超重力の惑星に住む100本足のムカデのようなものもいた。

 

 確かに広い宇宙の生命体が、ヒューマノイドばかりであるはずがない。よりリアルなSFを標榜していく中で、スペースオペラも脱皮の時期を迎えていた。本書(1950年発表)の作者E・E・スミスは、これまでにも「スカイラークもの」という第一世代スペースオペラを発表していたが、第二世代に挑戦したのが本書に始まる「レンズマンもの」である。

 

 レンズマンとは銀河文明を守るFBIのような組織。毎年100万人の応募者があり、5年間の厳しい訓練の間に、知力・体力・矜持・嗜好などに少しでも瑕疵があると不合格になる。最初の1年間で500人にまで絞られるという。晴れてレンズマンになる前に、候補者は超文明アリシア星に派遣され各人に合ったレンズを受け取る。

 

 このレンズはレンズマン同士が遠く離れていても会話でき、他の生物の言葉や心を理解する助けにもなる。レンズマンが死んだり、無理にレンズが剝されると、レンズは自壊し悪者に利用されることはない。所有者と共に成長もする、不思議なツールである。

 

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 新しくレンズマンになったキムボール・キニスン中尉は、早速宇宙海賊ボスコーン討伐の任務に就く。ボスコーンは独自の技術を持ち、銀河連邦の海軍より強い戦力を展開している。海賊によって星間を行く輸送船団が甚大な被害を受けていたのだ。

 

 新造艦を駆ってキニスンたちは海賊船に接舷し、彼らの技術情報を奪った。しかしその情報を持ち帰る過程で、苦戦を強いられる。翼竜のような異星人、精神感応能力に特化した種族、ドラム缶のような体型の宇宙人などがキニスンたちの前に立ちはだかる。キニスンが重傷を負った時も、赤毛の美人看護師の介抱で回復し、やがてお約束のロマンスに。

 

 アニメ風の表紙や挿画などが気に入らずで、若いころは手を出せなかったシリーズです。ハードSFっぽいスペースオペラ、Ver.2.0というわけですね。