新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

インド王家の宝石

 本書はコナン・ドイル著、シャーロック・ホームズものの長編4作のうちの第二作。第一長編「緋色の研究」も、200ページのうち事件と謎解きは半分で終わり、あとは事件の背景となったある種の冒険譚が語られていた。その傾向は本書にもあり、200ページ中、最後の50ページはインド動乱の中で王家の宝石を手に入れてしまった義勇兵の冒険譚になっている。

 

 作者はホームズのおかげで「サー」の称号を得たのだが、本当に彼が嫌いで一度殺してしまったこともある。作者には怪奇ものやSFものの著作もあり、冒険譚は大好きだった。だから処女長編でも半分は冒険譚にしたのだろう。まあ、天才肌の探偵が事件を解決するには、長編は長すぎるということもある。

 

 しかしホームズの魅力は、一見些細な事柄から犯人の特徴、犯行経緯などを、多くは物理的に推理するもので、本書にも事件に入る前に2度ほど「推理」を披露して見せる。処女長編よりは、読者へのサービスは充実してきたということだろう。

 

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 暇を持て余し、モルヒネやコカインを静脈注射しているホームズのもとに、若く清楚な娘モースタン嬢がやってくる。彼女の父親はアンダマン島勤務の大尉だったが、里帰りした10年前謎の失踪を遂げていた。その後、彼女のもとにはしかるべき金額の支援が行われるようになったのだが、今回その支援者と思しき人物から呼び出しがかかったので付き合ってほしいというのが依頼だった。

 

 ホームズとワトソン博士は彼女と一緒に指定の場所に出掛け、モースタン大尉の上司だったというショルトー少佐の遺児2人と会うことになる。ところがそのうちの一人が殺され、二人は官憲が踏み込む前の殺人現場を調べることになる。現場から逃げ去ったと思われる2人の賊について、例によってホームズの物理的な推理が冴える。点眼鏡や巻き尺を持ち出し、絨毯の上の泥や凶器と思われる吹矢を調べ、賊の一人が片足が義足だと看破する。

 

 面白いのは、賊が潜んでいるらしいテムズ河の船を見つけ、船での追跡劇をするところ。普段の怠惰なホームズではない。古式ゆかしい冒険小説なのだが、最後にモースタン嬢とワトソン博士が結婚するというめでたいエンディングになる。このスタイルが、作者の書きたかった物語なのだということはよくわかりましたよ。