新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

コロンボ、ハッカーに挑む

 本書(1994年発表)は、W・リンク&R・レビンソンの刑事コロンボシリーズの1冊。TV放映されたかどうかの説明はないが、僕自身は見た記憶はない。コロンボ警部が犯罪学の講義をしに行くという話は他にもあったが、本書の舞台はフリーモント大学の法学教室。同大学出身の部下クレーマー刑事の代役で法学教室の臨時講師を務めることになった警部が、そこで起きた殺人事件に巻き込まれる。

 

 殺人をしてのけたのは法学教室の2人の学生、ジャスティンとクーパー。ジャスティンは同大学理事で有名な弁護士でもあるロウ氏の息子、父親は息子を弁護事務所の後継者のしたいのだが本人はテニスに血道をあげている。クーパーの父親はすでに他界、ジャスティンの面倒を見る条件でロウ氏から学費を出してもらっているが、本人の興味は法学よりもコンピュータ。IBM/PCで自製のゲームを作ることで才能を発揮している。

 

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 2人とも余技に忙しくラスク教授の卒業試験には合格しそうもないので、クーパーが教授のPCをハックして試験問題を盗み出す。当然いい回答が出来たのだが、教授はカンニングを見破り2人に落第か退学かを迫った。窮した2人は教授を殺害することにして、コロンボ警部の講義中に教授を大学の駐車場に誘い出し、遠隔操作で射殺する。自分たちのアリバイは講義をしていた警部自身が証明してくれるというわけ。

 

 1994年といえば、まだWindows95はリリースされていない。しかし旧OS環境下でも、ハッキングやコンピュータウイルスは存在していた。本書に出てくる「ヤンキー・ドゥードル」というウイルスは、突然「アルプス一万尺」を歌い始めるというだけの迷惑ウイルス。正直、懐かしさで一杯だ。

 

 ラスク教授は社会の犯罪・犯罪組織についての研究者で、これらの組織を糾弾する活動をしていた。そのため潜在的な容疑者・団体はたくさんいるのだが、警部は2人の学生に目星をつける。メカはもちろんデジタルには真っ暗なコロンボ警部が、2人の若い犯罪者に仕掛ける「罠」が面白い。この種の罠はコロンボものではよく使われるのだが、何しろ初期のサイバーセキュリティ世界が舞台なので興味は尽きない。

 

 警部が2人に掛けた「罠」は、今でも組織的な犯罪者に対して(場合によっては国家レベルの攻撃者にも)民間企業が使えるパターンです。40年近く前の参考書、面白いので本棚に仕舞っておきますよ。