新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

第三次AIブームの特徴と限界

 世界中AIブームである。機械翻訳や自動運転に期待もかかるが、雇用は大丈夫かとか暴走によって人権侵害が起きないかと不安を訴える人もいる。欧州委員会の「AI白書」には、リスクに対処するため規制をかけようというスタンスがありありと見られる。

 

 これからデジタル政策の大きな論点になるだろうAIについて、ちょっと勉強しなおすつもりで本書(2016年発表)を手に取った。第一次/二次のAIブームとの違いが本書にある。

 

・第一次(1970年代前半)

 人間の知的活動をコンピューターに移そうとした「おもちゃの世界」

・第二次(1980年代後半)

 知識(ルールベース)重視のエキスパートシステム、専用言語(Lisp等)も出た

 

 今の第三次ブームの中心になっているのは「ニューラルネット」という概念。簡単に言えば、例えばA~Hの入力に対してW~Zの出力をするのだが、その中間層(状態)を重み付け遷移ネットで結び、その重みを何度も機械的に学習するうちに変化させ正解出力の可能性を高めるというもの。その中間層が何層にもわたり複雑になるほど、理論的に性能は高くなる。機械学習するから「Machine Learning」深く中間層を使うから「Deep Learning」という。

 

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 本書ではゲームのプログラミングを三目並べから囲碁に至るまで解説し、分かりやすく今話題のAIの説明をしている。例に引いた「アルファ碁」は、2016年に韓国のTOP棋士を破ったというAI。学習データとしてプロ同士の対戦を16万局、約3,000万局面を記憶させているという。

 

 ただTOPプロに勝つまでになっても、専門家は「身体性がないアルファ碁は、AIとは呼べない」ともいう。身体性とは、世の中のことを感じ取るセンサーを持っていることを意味する。今後「AIの定義」を議論する一つの論点となろう。

 

 筆者は「ニューラルネット」にも限界があり、自然言語理解や各種認証の分野では第三次AIは有望としながら、ロボットや自動運転車のように身体性を要求されるものは不得手だと言っている。それゆえ第三次AIは人間を越えるものにはならず、人間を助けるものにとどまるという。

 

 筆者(や汎用AIを目指す人)たちは、身体性を備えた第四次AIの登場を待っているようです。それでも第三次AIにできることはたくさんあるので、規制論議などはますます活発になるでしょうがね。