2019年発表の本書は、いずれも海軍兵学校卒業のデイビッド・ブランズ(潜水艦乗り)とJ・R・オルセン(情報将校)の共著による、サイバー軍事スリラー。2人は2つの軍事スリラーを自費出版したが、本書は大手出版社から出版された「公的な」デビュー作。日米中の軍隊の指揮系統をハッキングしたテロリストが、極東発の第三次世界大戦をもくろむ話だ。
凶悪なテロリストであるロシッドは、ロシアマフィアからの依頼で米中間に緊張をもたらせる作戦を用意した。潜伏場所は、北朝鮮領の日本海の島。金総書記の側近パクを抱き込んで、北朝鮮のハッカーたちを島に集めていた。そこで作成されたウイルス<雷魚>は、軍事システムの中枢に入り込み、これを乗っ取ることができる。高度ではないが自己学習能力も備えていて、獲物(クラッキング対象)を嗅ぎつけるとそちらに注力する自由度も持っている。
日米中三ヵ国の軍事システムに、<雷魚>を仕込むやり方が面白い。
・中国 軍事専用通信システム中継器を掘り出し、そこに仕込む
・日本 地下鉄工事の現場から、やはり中継器にたどり着いて仕込む
・米国 強襲指揮艦のIT管理士官を脅迫し、システム内部から仕込ませる
<雷魚>はまず中国軍を乗っ取り、日米軍への攻撃を命じる。J-10戦闘機は対艦ミサイルで日本の護衛艦を撃沈し、潜水艦が米軍空母に巡航ミサイルを発射してこれを大破させる。これで原題「Rules of Engagement(交戦規則)」はクリアされたことになる。当然米軍も反撃、多くの血が流れる。
米国海軍兵学校教官のライリーは、指揮下に天才ハッカー男女3人を持っていて、彼らが<雷魚>の存在を探知する。東シナ海の紛争がエスカレートする中、若い彼らの手腕に第三次世界大戦を防げるかがかかっていた。ロシッドは、中国軍に核兵器を使わせようとするのだが・・・。
サイバー攻撃による戦争ものでは、指折りのリアルさ。クラッキングのテクニックについても、書ける範囲で紹介している。解説の「トム・クランシーの再来」はやや大げさですが、面白かったです。もうちょっと日本軍に頑張って欲しかった・・・。