新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

追われるものの暮らし方

 本書は「戦闘級のチャンピオン」マーク・グリーニーのグレイマン・シリーズの第四作。目立たない男グレイマンこと元CIAの工作員で暗殺者のコート・ジェントリイが主人公。前作でメキシコマフィアを打ち負かしたものの、故郷のアメリカには戻れなくなってしまった彼は、過去の経緯もあって複数の組織に付け狙われていた。

 

 そのうちの一つロシアマフィアのボスを倒そうと、彼は厳冬のロシアにやってきた。20人ほどの警備員に守られている目標だが、この夜は拠点中がお祝いで呑んだくれている。人数はいつもの倍いるが、リスクは低いと見た彼はスナイパーライフルで歩哨を倒し、愛用のグロックでボスを射殺する。そして鮮やかに逃走するのだが、その一部始終を米国の無人機が監視していた。

 

 監視していたのは民間企業タウンゼントのチーム、彼らはCIAの「外郭団体」でコートの首にかかった賞金を狙って網を張っていたのだ。チームの中ではぐれ者だが高い戦闘力を誇るのがラッセル暗号名デッドアイで、この名前が原題になっている。ロシアからスエーデンに逃れたコートを、タウンゼントのチームが追う。

 

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 街中の防犯カメラをハックしたり無人機を飛ばして、コートの潜伏先を探ってくる。8人の暗殺チームに包囲されてしまったコートだが、意外なことにラッセルが仲間を裏切りコートを助ける。命を助けられながらもラッセルの事を信用しないコートだが、それはラッセルの中に自分に似たものを嗅ぎ取ったからだ。ラッセルはコートの資料を見てあこがれたというが、狙いはもっと別のところにあった。

 

 前3作で「第三次世界大戦」かと思わせる派手な戦闘を生き延びたコートだが、本作では割合地味な戦いに終始する。いや地味な戦いというより逃げ延びることに全力を使っているのだ。難民しか住まない区画に隠れたり、街はずれの安下宿を探している。金がないのではなく、目立たないためだ。途中道連れになったモサド女工作員に対し「追われるものの暮らし方を教えてやる」と言う。

 

 冒頭のマフィア殺し以外は、過去のエピソードでキエフの軍事拠点をひとりで壊滅させるドンパチが目立つくらい。前3作は軍事スリラーだったが本書はスパイものの色が濃い。確かに前作までの勢いでエスカレートしたら、本当に世界大戦になりそうだったので仕方ないのかもしれません。もちろんラッセルとのプロの戦いは、読み応えありましたけれどね。