新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

長期政権を支えた無私の人

 本書は、まだ「COVID-19」禍が始まったばかりの2020年4月に出版されたもの。以前「小説政界陰の仕掛け人」を紹介した、ルポライター大下英治の菅官房長官論である。「政界陰・・・」が扱っていたのは、中曽根・田中・竹下総理の陰にいた3人だったから、ずいぶん息の長い作家である。政界・官界・産業界・スポーツ界・芸能界など、非常に幅広い分野のルポがある。

 

 第二次安倍政権が3期目に入り、後継者は誰だ?あるいは安倍4選か?と噂されていた。政界OBや有識者からは「菅官房長官で決まり」との発言も多かった。本書は、高校を卒業して秋田から上京した時代からの菅義偉という政治家の軌跡をたどりながら、小此木彦三郎(八郎の父)・古賀誠梶山静六らの薫陶を受け、小泉内閣での総務副大臣、第一次安部内閣での総務大臣、第二次安倍内閣で歴代最長記録を作った官房長官としての活動をまとめている。

 

 ある事務次官OBは菅官房長官(当時)のことを、

 

・苦労人で頑張り屋

・大物政治家の背中を見て育った

・政治に対する考え方が現代的

 

 と評し、並の二世・三世議員では及ばない能力を持っているという。

 

        

 

 特に、総務副大臣時代に、竹中総務大臣から「私の任期は残り1年、これ以上の改革はできない。総務省の内情把握をして、次の内閣に備えてくれ」と言われて、総務省内を握ったのが大きい。指折りの巨大官庁であり、地方行政やICT政策、郵政やNTT、NHKなどインフラ産業を管轄している。第一次安倍内閣を倒した「消えた年金事件」も、社会保険庁解体は総務省が担った。

 

 第一次安倍内閣は多くの法案を成立させたが、急ぎ過ぎて足を掬われた。第二次では、官僚を適切にコントロールするための<内閣人事局>による人事の一元化を図り、改革に抵抗する官僚たちを「できない理由を言うな、できるやり方を持ってこい」と叱咤した。

 

 危機管理を担当する役職ゆえ地元(横浜)に帰ることはめったになく、深夜でも事件があれば1時間以内に官邸に駆け付けたとある。酒も飲まず「何が面白いのか」と揶揄されるほど、無私の姿勢で仕事に打ち込んだ。官房長官として、メディアも大事にしたとある。余計なことは一切言わないのだが、懇談の場ではオフレコとしてメディアにお土産を持たせることも忘れなかった。

 

 今、その政策評価が見直されている菅内閣ですが、どうしてあんなに不人気だったのでしょうか?メディアの罪?