2021年発表の本書は、朝日新聞藤田知也記者の「日本郵政の腐敗レポート」。ここに取り上げられている問題は、
1)かんぽ保険の不正販売
2)内部通報制度の機能不全
3)ゆうちょ銀行の不正引き出し
4)同じく投資信託販売不正
5)NHKへの報道弾圧
6)総務次官の情報漏洩
で、これらは2018年からのわずか1年半で起きたとある。筆者はこれらの問題の根本には、幹部の無責任さがあるという。旧郵政省出身者が多く、政治に翻弄されやすく、郵便局長たちに特別の配慮をしなくてはならない環境とはいえ、ガバナンスが構築できなかった責は重い。金融界の大物やクリーンなイメージの政治家をトップに迎えても、改革はならなかった。
筆者は日本郵政グループの問題を、日本企業に多い、
・場の空気に流されやすい同質性
・答えが決まったコンプライアンスを現場に押し付ける真面目さ
・危機管理にあたり外部を無視する内向きの視野
にあると言っている。本来金融業を監督する金融庁としても、総務省の影響力の強いこのグループは扱いにくい存在だったとある。
上記の1~4までの問題は、そもそも無理な数値ノルマを与えられた真面目な従業員たち(局長クラスも含む)が、内向きのみの視野で起こしたもの。ここまでは日本企業に共通と筆者が言う問題である。しかし、5と6はそれでは説明できない。どうしても政治の影響力を感じざるを得ない。
自らの不正を糾弾しようとしたメディア(同じ総務省傘下のNHK)に圧力をかけることができたのは、政治のバックがあったかあると誤認したからである。鈴木茂樹総務事務次官の辞職につながる6の事件も、
「イーブン」ってどういうこと? - Cyber NINJA、只今参上 (hatenablog.com)
でコメントしたように、複雑な事情が背景にある。本書ではそれを旧郵政省に特別の影響力をもつ菅官房長官(当時)の差配だったとしている。小泉内閣の郵政民営化の後、菅氏が集票マシンとしての郵政グループに着目して官の影響力を強めたという主張。この事件の状況や背景を知ることができ、イーブンの意味を教えてもらった書でした。