新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

政治団体「オリーブの木」の主張

 2020年発表の本書は、YouTuberで政治団体オリーブの木」代表の黒川敦彦氏の主張をまとめたもの。この団体の指向は、反グローバリズム・反新自由主義だが、「れいわ新選組」などの左派とは違うようだ。モットーは「なんでもできるさ、ピープルパワーで!」なのだが、本書にはその色は薄い。著者が本書で糾弾しているのは、

 

・危ないマネーゲームをしているソフトバンク

サブプライムのリメイク版CLOに入れ込んでいる農林中金

天文学的金額のデリバティブを抱えるドイツ銀行の後追いをする郵貯銀行

 

 で、何人かの悪人が日本市民の資産を外資に売り渡そうとしていると訴えている。ソフトバンクがすでに投資会社なのは公知だが、筆者は投資先がAIやDXを掲げると多額の出資に踏み切り、痛い目に遭っているという。グローバル金融業者はケダモノばかりで、世界経済は不良債権にまみれてしまい、直にリーマンショックの数十倍の金融危機がやってくるともいう。もちろん真実はいくつも取り上げている。

 

ソフトバンクGrの有利子負債は18兆円

農林中金のCLO保有高は7.9兆円(MUFGでも2.5兆円)

ドイツ銀行デリバティブ残高は、ドイツのGDPの12年分

 

 だから金融危機が来るというのは、ちょっと短絡的ではなかろうか?

 

        

 

 いくつか面白い話はある。

 

・地銀資産の中の「その他証券」は実質ジャンク債、多ければ破綻が近い

原発立地自治体の地銀に破綻懸念が多い(島根銀行福島銀行福井銀行ら)

 

 ゴールドマンサックスで出世する3つの方法というのも、うなずけた。

 

1)利益の出ない商品を顧客に買わせる

2)会社に大きな利益をもたらす客を連れてくる

3)わけの分からない(3文字略語の)金融商品を開発する

 

 このようにして、日本国民の大事な資産を預かっているゆうちょ銀行や地銀などが、悪徳外資に食い物にされているとの主張である。

 

 政治団体の主張の割には、行政はこうすべきだとか、外交は安全保障は・・・という話はほとんどなく、世界の金融業界や個々の悪人(例によって竹中教授がやり玉に)をあげつらっていて「どうするべきか」の答えがない。

 

 そういう意味で不思議な書で、政治家・官僚・財界人から一般市民に何を訴えたいのかが見えにくかったです。