新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

日本人の思考1940(前編)

 三野正洋と言う人は日大講師の傍ら、技術者の視点から「戦略・作戦・戦術」に関する独自の分析をした著作を多く著わしている。以前「戦車対戦車」「戦闘機対戦闘機」という兵器の比較研究書は紹介している。今回は技術論ではなく軍(あるいは国)の思考にメスをあてた「小失敗」シリーズを取り上げたい。まず第二次世界大戦における日本の失敗は、国力は10倍以上違う米国に喧嘩を売った「大失敗」だけでなくより小さな失敗も数々あったと主張している本書(1995年発表)と続編。

 

 当時の日本(軍)の何が問題だったのかと言うと、合理性に欠けていたというのが結論のようだ。資源の少ない国ゆえ「欲しがりません勝つまでは」といった精神論ばかりが先行し、優位に進められるはずの戦いですら敗北していると作者は言う。本書から得た事例で僕が興味を持ったものをいくつか紹介しよう。

 

■補給の軽視

 「輜重・輸卒が兵隊ならば、蝶々・蜻蛉も鳥のうち」という戯れ歌にあるように、陸軍は「戦場に兵士と小銃・弾丸があれば戦える」と思っていたらしい。最前線で闘う将兵を重視し、古来戦争の行方を決める「兵站」を軽んじた。同時に兵士の命を救うことも軽く見て、戦場の医療や薬剤等の準備も怠っていた。

 

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■標準化への無関心

 大戦末期の海軍主力戦闘機零戦52型は、三種類の機関銃(7.7mm、13mm、20mm)を積んでいた。銃弾の補給には2倍の手間が掛かったろうし、その兵站も大変だ。設計思想もひどいが、組織の壁の問題もある。ダイムラーの液冷エンジン(Bf109の)をドイツからライセンスを受けるのに、陸軍と海軍が別々に(無関係に)ライセンス料を払ったという。もっとひどい例では、陸軍は独自に潜水艦や航空母艦を設計・建造し実践投入している。

 

■レジリエンシィを考慮せず

 米国は軍艦は被害を受けるものと考えて、レジリエンシィを重視した設計をしている。日本軍の兵器はミッドウェイで沈んだ航空母艦が代表だが、撃たれ弱い。これは幅広くどんな兵器にも言えることで、当たったら仕方がないと考えて攻撃力や速力重視の設計になっている。

 

 これらに加えて通信技術・暗号化などの電子戦でも米国に水をあけられっぱなしだっと本書は言う。まさに「負けに不思議な負けなし」ということだろう。

 

<続く>