新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

おもちゃ箱をひっくり返したよう

 本書も三野正洋の「小失敗」シリーズの1冊、対象はヒトラーの軍隊である。副題に「第二次世界大戦戦闘・兵器学教本」とあるように、軍事思想を中心にした日本軍篇とは異なり、兵器の開発や運用が主な話題である。ただ冒頭、第一次世界大戦に学ばなかったとして、

 

・東西両面作戦をしてしまったこと

・いずれ米国が参戦するのを軽視したこと

 

 の2点を挙げている。確かに両大戦はそこそこの戦力を持っているドイツが、東西に敵を受けて戦線が膠着した後、米国の参戦によってとどめを刺されている。ただこれなどは「大失敗」の範疇だと思うし、そのあと一杯出てくるドイツ人特有の「凝った兵器」の記述の方がずっと面白い。

 

 華々しい活躍で知られるルフトヴァッフェだが、いびつな能力を持った軍隊でもあった。極端な「戦術空軍」で、Bf109の空中戦もJu87の急降下爆撃も局地戦での威力は十分だが「英国上空の戦い」のような戦略戦闘には不向きだった。なにしろ足が短くて、ロンドン上空には10分ほどしか滞空できないのだから。

 

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 開戦時空中戦も爆撃も地上攻撃もできる万能機と考えられていたBf110は、数多くのバリエーションを産んだものの活躍できなかった。他の国を見ても例のない三座の「戦闘機」なのだ。変わった機体が続々開発されたが、僕が一番驚いたのはBv141偵察機。左右非対称という他に例がない形状で、右翼の付け根近くにコックピットがある。翼が邪魔で下がよく見渡せないからコックピットを横にズラせば見やすいだろうとの考えらしい。結局12機しか作られなかったし、戦果も報告されていない。操縦はとても難しかっただろうと思う。

 

 

 陸軍にも問題点は多い。まず国防軍と親衛隊という2つの軍隊があったのが、大きな問題。(武装)親衛隊はヒトラーの直属で、通常の陸軍とは命令系統が違う。それが最新の強力な兵器を優先して配備されるし士気も高く、戦場では存在感を示していた。ヒトラーは巨大兵器好きで、別ブログで紹介したヤクートティーガーのような128mm砲戦車や800mm列車砲ドーラなどを次々に作らせた。その一方でAFV用のディーゼルエンジンは開発していない。環境問題を除けば、ディーゼルの方がガソリンより燃費が良く火炎瓶などの攻撃にも強い。

 

 とにかく全編「おもちゃ箱をひっくり返したような」珍兵器の集大成でした。ドイツ軍を扱った戦術級ゲームが多いのも分かるような気がします。