新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

20世紀、空を制した技術

 光人社NF文庫の兵器入門シリーズ、今月は「戦闘機」である。最初は上空から戦場の様子を偵察する目的で、気球や飛行船と共に実用化された航空機だが、そのうちに相手を撃ち落とす役割を持つようになった。第一次世界大戦でもすでに「エース:5機以上を墜としたパイロット」の称号があり、空の闘いは第二次世界大戦でより戦争の帰趨を左右するようになった。

 

 兵士の士気や練度が大きな意味を持つ陸戦に比べ、海空の闘いは技術の優位性がより重要になる。本書は偵察用航空機が拳銃で撃ちあった時代から、近年のミサイルを撃ち合う戦闘まで、闘いを支える技術について解説したものである。

 

 相手の航空機を撃ち落とすか、少なくとも追い払うためには、戦闘機はいくつかの能力を持つ必要がある。

 

・航続力 戦場にいられるために必要

・運動性 相手の死角に回り込めないと苦戦

・攻撃力、火力 銃の口径や数、搭載弾数、ミサイル等の能力

・速力 逃げる時も攻撃する時も、早いほど有利

・上昇限度、上昇速度 高いところに早く上がれれば有利

・偵察力、通信能力 敵を早く見つけ、仲間と共同して当たれれば有利

・防御力 多少撃たれても生き延びられる装甲やバイタルパートディフェンス力

 

 これらの能力には相矛盾するものもあるし、備えるにはコストがかかる(ハネ上がる)ものもある。想定される戦場に対し、あるものはあきらめあるものは追及するのが技術者に突き付けられる命題である。

 

        f:id:nicky-akira:20210907151657j:plain

 

 有名な「零戦」は、艦上戦闘機という制約の中で、航続力と火力を重視、運動性と速力にも配慮しながら防御力には目を瞑った設計といえる。ドイツの「Me109」は航続力はからきしだが、火力と速力に優れ防御力もまずまずで大戦初期には優位に立った。英国の「スピットファイア」は7.7mm機銃ながら8門も装備した火力と速力、防御力で「Me109」のライバルになった。双発単座という珍しい戦闘機「P-38」は、欧米の戦闘機として最大の航続距離を持ち速度、火力も十分で、山本長官機を襲撃するのにも使われた。

 

 本書には最初のジェット戦闘機「Me-262」や試製に終わった「震電」も紹介されているほか、第二次世界大戦後のジェット戦闘機同士の空戦方法、ミサイルやスマート爆弾についても記述がある。

 

 刺激的な図面も多く、帝国陸海軍の機種記号の振り方まで、参考になる資料集でした。