新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

半固定の階級社会と移民

 「Brexit」の流れで、スコットランド独立の気配が出てきてしまった英国。北アイルランドはもちろんウェールズにも怪しげな動きがあり、本当に4つの国になってしまうかもしれない。国際政治やサイバーセキュリティで学ぶところの多い国だが、内政に関しては真似をしたくないなと思う。その混乱ぶりの源流を知りたくて、2017年発表の本書を買ってきた。著者のブレイディみかこさんは、20年以上英国在住(夫君は英国のワーキングクラスの白人)の主婦でもあり保育士でもある人。

 

 本書は「Brexit」の国民投票に対し、英国の労働者階級がどう考えて票を投じたか?その背景を1910年にまでさかのぼって考察したものである。英国社会がほぼ固定化された階級社会であることは、僕も何度か英国を訪問して知っている。スーパーマーケットが階層別に存在しているのだ。本書に面白い分析があり、英国の労働者に階層を尋ねると、

 

1.貴族、上流階級

2.専門職

3.マイノリティ、移民

4.白人労働者

 

 となっていて、同じ質問を米国のプアホワイトに同じ質問をすると、

 

1.金持ち

2.ミドルクラス

3.労働者階級

4.生活保護受給者

 

 となっているという。後者が収入など資金で差別化されているのに対し、前者は出自で分けられているのが特徴的だ。また、自分たちより移民が厚遇されていると考えていることにも驚かされる

 

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 2016年の離脱か残留かの国民投票で、なぜ「離脱」に多くが投票したかと言うと、欧州という単一市場を嫌ったわけではなく移民をこれ以上増やしたくないとの思いだったと本書にある。移民そのものを憎むというより、移民増によって、少ない公共サービス(医療・住宅・教育等)がより入手できなくなるのが困るということらしい。

 

 その背景には、キャメロン政権での厳しい緊縮財政がある。労働党政権がバラ撒きをし過ぎたとされて、保守党政権はサッチャー時代から緊縮財政に入る。自由主義で「富裕層は自由に豊かに、貧困層は自由に苦しめ」という政策が続いた。それがキャメロン政権で頂点に達し、労働者階層はキレたというわけ。上記の階層意識でも、移民にはまず公営住宅が与えられるなどの措置を、自分たちより優遇されていると捉えているのだ。

 

 翻って英国よりずっとGDPあたりの国の借金が多い日本、そこかしこから「カネ回せ」の声が聞こえてきますが、さて英国の教訓をどう考えるべきでしょうか?