新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

自白剤を使わなくても

 1941年発表の本書は、以前「幽霊の2/3」「家蝿とカナリア」などを紹介したヘレン・マクロイのベイジル・ウィリング博士もの。第二次世界大戦がはじまっていたがまだ平穏なニューヨークを舞台に、嫌われ者の富豪美女殺しにウィリング博士が挑む。

 

 ロングアイランドのブレッシングボード荘に住むクローディアは、アラフォー美女。現在の夫マイクは若い三番目の夫。最初の夫は高齢で、繊維会社の株式を彼女に遺して死去。二番目の夫とは、パリでマイクとの浮気がバレて離婚。マイクも妻のフィリスと離婚して、再婚している。マイクは若いフィリスではなく、株式などの資産を選んだわけだ。

 

 クローディアはたびたびパーティを開くが、常識を超えたいたずらをするので嫌われている。それでも参加者(繊維会社の支配人チャールズ、何かを握られている若い娘ペギー、生化学者のスレイター博士にフィリスら)は、魔力に魅かれて参加してくる。

 

        

 

 今夜のパーティでも、クローディアはスレイター博士の実験室から盗み出した自白剤を、参加者にこっそり飲ませた。その結果、参加者は<自白>を始めてしまう。いつもおどおどしていたフィリスは、ケラケラ笑いながら「自分とマイクは別れていない。全部貴女の財産目当ての芝居よ」と言い、マイクも肯定する。さらにチャールズは「貴女は実は無一文なのだ」と衝撃の告白をする。

 

 皆が寝静まった未明、クローディアは何者かに絞殺された。彼女の別館を借りてニューヨークに滞在していたウィリング博士は、死体の第一発見者となったことで事件に巻き込まれる。犯人はほぼパーティ出席者に限られていたが、誰もが強い動機を持っている。ウィリングは「自白剤など使わなくても自白させる」とスレイター博士に評された心理学的手法で、真犯人の正体を暴く。

 

 これは隠れた本格ミステリーの傑作でした。ドイツ軍のパリ占領のような時代背景もあり、ウィリング博士の推理が冴えます。「幽霊の2/3」を越える名作と思いました。