新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

内海薫刑事登場

 本書は2006~2008年にかけて、いくつかの雑誌に掲載された「湯川学もの」中・短編を5編収めたもの。「予知夢」に続く第三短篇集である。2007年にフジTV「月9」枠で連続ドラマ「ガリレオ」が放映されている。当初の短編では警視庁捜査一課の草薙刑事が、同級生の湯川助教授(後に准教授)に奇怪な事件の解決を依頼しに来るというパターンだった。

 

 これはこれで面白いのだが、連続ドラマとするには「華」に欠ける。津村秀介が将棋&酒好きの2人の30男(伸介&実憲)では映えないと、女子大生前野美保を持ってきたように、レギュラー陣には女優さんが必要である。そこで本書の「落下る」で、内海薫という女性刑事が登場し、徐々に草薙の立場を奪っていく。「月9」のイメージ映像は、湯川役福山雅治と同じ大きさで内海役柴咲コウが映っていた。

 

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 作者東野圭吾も、TV局の要望もあったろうが女性刑事を登場させ、しかも彼女になかなかの推理能力を与えた。間宮係長や草薙刑事が気づかないこと、

 

・女性一人のディナーなら、こんなに綺麗に盛り付けない。

・下着の宅配品を玄関においたまま迎えた男なら、深い関係にある。

 

 などと現場の細かな点を指摘して、草薙らを感心させている。後に湯川自身も内海刑事に向かって、「君には草薙らに無い才能がある。女性特有の直観力・観察力・頑固さ・執念深さ・冷淡さ・・・」と評している。もっと言いたかったようだが、言わせてもらえなかった。

 

 また湯川自身も、初期の頃からは大分変ってきた。温情ある解決をしてかつての恩師から「君も変わったな。昔は科学にしか興味がなかったのに、人の心がわかるようになるとは」と言われ、「人の心も科学です。とても奥深い」と応えている。

 

 そうはいってもこのシリーズの面白さは、怪奇現象を現代科学で解き明かす点にあるのは確か。この5編の中でも湯川は好敵手(悪魔の手、メタルの魔術師)からの、化学的な挑戦を受けることになる。強敵ではあるが、湯川は表題にあるように「苦悩」したりはしない。例によってそらっとぼけながら、着実に犯人を追い詰めていく。

 

 来年はシリーズの新作映画「沈黙のパレード」が公開され、福山&柴咲コンビが復活するそうです。期待していましょう。でも、まだ湯川先生は教授になってないの?