新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

沿岸域戦闘艦<ミルウォーキー>

 トム・クランシーとスティーブ・ピチェニックの共著になる緊急事態対処部隊「オプ・センター」シリーズは、「ノドン強奪」に始まり12作を数えた。これらは全て新潮社から出版されていたが、新「オプ・センター」シリーズが扶桑社から3作だけ出版されている。2015年発表の本書は、その中の1冊。

 

 新シリーズはクランシー&ピチェニックは「原案」となっていて、書いたのはディック・コーチとジョージ・ガルドリスキである。確かにクランシーは2013年に急逝しているので、原案メモをもとに、この人たちが仕上げたものと思われる。しかし、大掛かりな陰謀や迫力ある戦闘シーンには、全く遜色はない。

 

 悪役は「ノドン強奪」以来久々の登場になる北朝鮮。すでに金正恩の時代になっていて、軍備拡張に邁進しているところ。先立つものはカネで、目を付けたのが黄海の石油・天然ガス資源。エネルギー不足が懸念される中国も、これを北朝鮮に開発させて入手したいと思っている。ただ資源域が韓国の領海にもかかっているのが問題。

 

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 北朝鮮はかつて<プエブロ>を拿捕して米韓に譲歩を強いた先例を思い出し、米艦の拿捕を企む。狙われたのは韓国軍と合同演習中の、沿岸域戦闘艦<ミルウォーキー>と掃海艇<ディフェンダー>。旧式艦ばかりとはいえ、北朝鮮海軍はそこそこの戦力を持っている。まずコルベット艦3隻で韓国西岸に機雷を敷設して閉鎖、韓国掃海艇6隻と合同演習で黄海に出ている2隻の米艦を狙って、フリゲート艦3隻を出撃させる。

 

 沿岸域戦闘艦<ミルウォーキー>は<フリーダム>級の新鋭艦、57mm砲1門と軽装で装甲はほとんどないが、最大45ノットの機動力を持つ。敵フリゲートの接近を知った艦長ケイトは、自艦で敵をひきつけ鈍足の掃海艇を逃がそうとする。10倍の砲撃力を持つ敵に対し、善戦する<ミルウォーキー>だが、ついに被弾炎上、無人島に乗り上げて総員退艦することに。北朝鮮はケイトら乗員を人質にとろうとし、彼女らの救出に「オプ・センター」が出撃する。

 

 <えひめ丸>事件で評判の悪い<グリーンヴィル>まで登場する救出作戦は、非常にリアル。無人機や潜水艦で両軍の闘いを見守る、中国の姿勢も不気味だ。さらに北朝鮮ゲリラの国連攻撃のおまけまでついて、軍事スリラーファンへのサービスは満点。

 

 この新シリーズ、3冊の後は出ていないようです。さすがに原案メモも尽きましたか。