新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

高木彬光レギュラーズ

 本書は光文社文庫の企画で、高木彬光が創造した5人の名探偵が登場する中短編を、各1作収めたもの。実はもう一人墨野隴人という探偵役がいるのだが、本書には収めてもらえなかったようだ。この探偵については「実は・・・」があるので、また別途ご紹介することもあるだろう。

 

 さて本書に選ばれた5人だが、

 

1)神津恭介

 一高きっての天才と言われ、東大医学部在学中に整数論の論文で理学博士を得、必然的に医学博士にもなった。「刺青殺人事件」がデビュー作で、17作の長編に登場する。同窓の作家松下研三をワトソン役に、警視庁の委嘱を受けて奸知に長けた犯人と対峙する。検視医でもあり、医学的・科学的手法で事件を解決することが多い。作者が本格ミステリーを書こうとしたときに、名探偵らしい名探偵として起用される。

 

2)大前田栄策

 合気道の達人で、真実かどうかは不明だが有名な侠客大前田栄五郎の5代の末裔と自称している。職業は私立探偵。短編「七つの顔を持つ女」でデビューしたが、長編としては4作しかない。犯罪小説やアクションものを書きたいときに起用したキャラだが、ハードボイルドと呼べるような雰囲気は少ない。

 

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3)百谷泉一郎

 脳溢血で早世した父の跡を継いだ、熱血青年弁護士。デビュー作は砂糖をめぐる詐欺事件を扱った「人蟻」、7作の長編に登場する。デビュー作で知り合った投資評論家の娘明子を妻にし、夫婦で事件解決に挑む。明子は父親譲りの相場師で「兜町の女将軍」のあだ名を持ち、夫を資金面でサポートする。ある種の「富豪探偵」で解決にカネをかけることができる。法廷シーンが有名だが、作者は犯罪小説を書きたいときにこの夫婦を使っているようだ。

 

4)霧島三郎

 東京地検の捜査検事。「検事霧島三郎」でデビューし、7作の長編に登場する。地道な警察・検察の捜査を描くことで「名刹神のごとき」ではないミステリーを目指した探偵役と思われる。地味だが神津恭介と並ぶほど知名度があるのは、TVドラマ化されたことが大きい。

 

5)近松茂道

 「グズ茂」の異名を持つ、冤罪嫌いの捜査検事。短編「灰色に見える猫」でデビュー、長編はわずかに4作。秋田人だが、旭川・仙台・名古屋・神戸と転任する。同じ検察官だが、地方を舞台にした作品を書きたい時に起用されたものと思われる。

 

 面白い特集でしたね。1作ずつだけでの比較論は出来ませんけれどね。