新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

鉄道愛に溢れたエッセィ

 大手の出版部長だった作者は、子供のころからの鉄道(というか汽車)好き。小学校入学前から時刻表を読みふけり、周囲は「神童」と思ったらしい。それが高じて日本中の国鉄全部乗るという快挙を成し遂げ「時刻表2万キロ」という著書で文壇デビューを果たした。ついに会社も辞め、モノ書きになって世界中の鉄道に乗りまくった人だ。本書は、1975~82年ころのエッセィを集めたものである。

 

 主として日本の国鉄赤字路線を巡る話なのだが、面白かったのは1981年に発売された「フルムーンパス」の話。今も売られているが、発売当時は夫婦で7日間国鉄グリーン車乗り放題で7万円というお値段だった。CMで夫婦役を演じた上原謙高峰三枝子のポスターが話題となっていた。普段は一人でいつ帰るとも知れない旅に出る作者も、このパスの登場で初めて奥様を旅行に誘った。しかし例によってマニアの本性が出てしまい、東京・松江・別府・博多・白浜・函館・稚内を巡って通常運賃31万円余りという旅程を企画した。お得には違いないのだが、奥様が首を縦に振らなかったのは当然である。

 

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 次に面白かったのは、首都圏の7私鉄についての評価。

 

東武 沿線は農村地区が多く、営業キロでダントツだが営業効率は悪い。

・西武 元は西武農業鉄道、遊園地や球場などを作る集客技量は高い。

・東急 東京横浜間の恵まれた立地ゆえ、成長意欲薄い。冷房化率も最悪。

・京王 不動産業への依存度高く、人口増に線路が追い付かず混雑がひどい。

小田急 観光地もあり輸送効率、1人当たりの営業収入は最高。

・京成 不良不動産を抱え、経営状態もサービスも最悪。

京急 とにかくスピード重視、飛ばせるところではすぐに増速。

 

 僕は、東武や京成には縁が薄いので、なるほどそんなものかと納得した。

 

 最後に、やはり赤字路線について触れなくてはならないだろう。営業係数ワースト10の路線を作者はこよなく愛した。ワースト1の美幸線(美深・仁宇布間)の営業係数は4,000近かった。100円売り上げるのに4,000円近くかかるということで、このような路線は北海道や北九州(炭鉱の廃止に伴い赤字化)が多かった。現在は、これらの路線はほとんど残っていない。

 

 JRになってあまり聞かれなくなった営業係数という単語、今もあるのでしょうかね?一度調べてみましょう。