新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

東北縦貫ハイジャック列車行

 種村直樹という人は、有名なレイルウェイライターである。新幹線、ローカル特急、寝台列車やフェリーなど動くものならなんでも乗り、駅弁や駅そば、地方の名産品などなんでも食べてたくさんの紀行文を書いた。以前紹介した宮脇俊三と比べると、より一般の利用者(マニアの初心者)から楽しめる作品群ではあるが、宮脇作品の方が品があったかなとも思う。

 

        f:id:nicky-akira:20190424203804p:plain

 
 この人がミステリーを書いていたことなどつゆ知らず、Book-offで見つけた時はびっくりして買ってしまった。本書の発表は1988年、国鉄民営化の1年後、青函連絡船廃止の当年にあたる。
 
 札幌の女子大生87人を乗せたチャーター列車「レジャーエクスプレス」がハイジャックされた。五稜郭から函館で青函連絡船に乗り、青森経由弘前でリンゴ狩りをする予定だったが、予定された連絡線に乗る前に誘拐されたらしい。犯人グループからは、JR北海道と東日本に4点の要求が付きつけられる。
 
 ・身代金、5億円
 ・青函連絡船の存続
 ・リニアモーターカーの研究データ提供
 ・犯人全員の安全保障
 
 行方不明だった列車が、三陸鉄道リアス線で発見される。犯人グループは函館付近の貨物線から列車を別の船に乗せ、八戸港に揚げて久慈線経由で南下しているのだ。この後、小牛田から東北本線に入った列車は、磐越西線経由会津鉄道野岩鉄道を通って東武線に入ってくる。このあたり、相当の鉄道知識がないと書けないルートである。
 
 犯人グループは国鉄からJRに移されなかった不満分子や、青函連絡船の乗員に加えて、何らかの過激な勢力が加わっているようだ。鉄道警察も知恵を絞って首都圏入りを阻止しようとし、執拗に南下を企てる犯人側と鉄道パズル/ゲームのような戦いを繰り広げる。
 
 国鉄民営化のころには、いくつものトラブルがあった。国鉄(労組)が問題を抱えていたことも確かで、民営化は総じていい結果をもたらしたと思う。フランスでは、今そのような議論や闘争をしています。ミステリーの謎としては、女子大生グループの中にハイジャック犯の仲間がいるらしくそれは誰かというのがあるのだが、ミステリーマニアには難しい謎ではない。作者の鉄道愛を、ミステリーという形で著わした作品で、そういう意味で興味深いものでした。